平鍋 それは大きな変化ですね。

藤井 私はKDDIに入社する前にグーグルに勤めていたのですが、グーグルのマネジメントは「目的を与えて現場で考える」形なんです。リーダーがファシリテートしつつ、現場のエンジニアが主導してプロジェクトを動かすということです。そういう形にできればいいなと思って、社内で展開しているところです。

野中郁次郎氏(以下、敬称略) グーグルのマネジメントはまさに米国の海兵隊のやり方なんですね。海兵隊では司令官やリーダーが部下に作戦や指令を出すのですが、組織的に第一線部隊にイニシアティブを与えています。現実の状況を最もタイムリーに理解しているのは最前線の部隊だという認識があるので、最前線の判断を尊重するんですね。だから、上司が部下に命令を与えるときも、「What」と「Why」を説明するんだけれど「How」は言わないんですよ。

平鍋 やり方は最前線の一人ひとりが考えるわけですね。

野中 海兵隊では、状況に応じて徹底的に分権化を行っています。部分と全体が相似形となって、どのレベルにおいても自己完結的な判断力と実行力を有しているのが大きな特徴であり、世界最強とも言われるゆえんです。

平鍋 健児氏
永和システムマネジメント代表取締役社長
1989年東京大学工学部卒業後、3次元CAD、リアルタイムシステム、UMLエディタastah*(旧名:JUDE)などの開発を経て、現在は、オブジェクト指向技術、アジャイル型開発を実践するエンジニアであり経営者。「ハート駆動型コミュニケーション」をモットーに、人に感動を与えられるコンサルタントを目指している。著書『アジャイル開発とスクラム ~顧客、技術、経営をつなぐマネジメント~』(野中郁次郎と共著)

全体と個が一致する日本経営

藤井 アジャイル開発を始めてから、以前よりも一人ひとりのメンバーの目線が高くなって全体に意識が行き届くようになったことを感じます。仕事もみんな生き生きと取り組むようになりました。

平鍋 ウォーターフォールというのは、結局エンジニアにとっては「ここに書かれていることをその通りにプログラミングしなさい」ということなんですよ。それで問題が起こると、「いや、それは書かれていませんでした」と言って設計担当者とぶつかり合いになる。こんなにつまらないことはないんですよね。

 一方、アジャイルでは、プログラムする人が「このシステムは何のために使われて、誰が喜びを得るのか、価値を得るのか」ということを考えるようになります。結果的にそちらのほうが断然いいものが出来上がります。