シリア・アレッポの石鹸屋(筆者撮影)

 旅を終えてから、2年が経つ。

 東京に帰ってきたときは、そりゃもう違和感だらけだった。

 帰国したその足で渋谷のスクランブル交差点に向かい、ロスト・イン・トランスレーションごっこと称して写真を撮ってみたのだが、数年ぶりの渋谷はのっぺりと青い光の海の中に沈んでいるようで、この世の場所とは思えなかった。警察官に撮影を頼むと2枚で断られた。「最近は肖像権とか、ありますんでね」と彼は言った。

 浦島太郎となった私のまわりの景色は一変していて、定住もせず定職に就かず、ふらふらしている人なんてひとりもいなかった。私は旅の後遺症で何にもコミットできず、「君に日常を感じない」と友人に言われながら、旅の延長のように日々をふらふらと暮らしていた。

「なんで旅したの」「着地点はどこなの」「旅を経て何を学びましたか」「何か見つかりましたか」「あなたは何者ですか」と聞かれるにつけ、ここはなんて目的意識が強い町なのだ、と私はうんざりした。