バスの中で、眠りは浅い。
プラスチックのポリタンクの上に座らされているから、ちゃんと眠れないのは当然だ。このバスではポリタンクが補助席代わりなのだ。舗装の甘いガタガタ道に、席は常に跳ねている。
しかし普通のシートだって負けず劣らずひどい。ノミ、ダニが居ついて、体育館のマットと同じ饐(す)えたにおいを放っているし、2席に3人の汗だくのアフリカ人が座っている(全員大柄だ)。彼らは半分まどろみの中で、うちわを持つ手を機械的に動かしている。
どういうわけか、灼熱の大地を走りながら、バスは窓を開けることをしない。東アフリカの山岳地帯では、窓を開けて入ってくる風で魂が奪われるから、というまことしやかな噂を聞いた。西アフリカの砂漠地帯では、乾燥した細かい砂粒でバスの中が砂だらけになるから、という実利的な理由を語られた。
だからバスの中は、サウナ状態になっている。当然エアコンなどない。
ところどころでバスは検問にかかる。いかめしい顔をしたポリスが近寄ってきてまるで見せしめ的に、乗客の荷物を下ろし始める。運転手が目配せをすると、乗客はうんざりしながら、そろって懐からお札をピラリと取り出す。すべての乗客からお札が取れるまで、ポリスは去らない。