ザンビアのリビングストンを出る夜行バスの発車直前に、手品師のような男の両替詐欺に遭った。バスの発車後に気付いた私は運転手や乗客に助けを求めたが、誰一人として私に協力してくれなかった。バスは止まらず、私は怒りながら着席した。
アフリカの移動では私を助けてくれる人にしか出会わなかったので、両替詐欺に遭ったことよりも、誰も助けてくれなかったという事実の方が衝撃だった。エチオピア南部の片田舎で携帯をすられたときなどは、スリの男を追いかけてくれた地元の人たちのおかげで、携帯はものの3分で奪い返された。うち何人かはスリに殴りかかり、もういいよと私が言う羽目になったほどだった。
だから、バスに座りながら、私の中にある気持ちは怒りや憤りよりも、なぜだろうと思う不可解な気持ちの方が強かった。
「ザンビアでは最近、反中感情が強いんだ」
「きみ、災難だったね」と、隣のおじさんが話しかけてきた。とても背が高いおじさんだった。
「ええ」と私はまだ半分不機嫌な面持ちで答える。「誰も助けてくれませんでしたしね」
「ああいう輩は多いんだ。仕方ないよ」と彼は言う。
「仕方ないよで済んだら警察要らないでしょう」と私。
「まあまあ。国境でちゃんといいレートで替えられるように、俺が協力してあげるから」
「それはどうも」
「ところできみは、中国人? 何してるの? 観光?」