“すぐ後ろでバシャと物音がした。ふと振り向くと、前足の片方を水に突っ込んだ状態のクマがいた。距離にしてわずか2mほど。(中略)クマは、最初は何が起きているのか分からないといった感じできょとんとしていたが、それからお互い一気に「わ!ヤバイ」となった。”
1、2番目のケースは、「まさかの油断」が招いた遭遇。クマは本来、臆病な性格と言われている。人身事故の多くは出会い頭のパニックによるもので、早めに人に気付けばたいていはクマの方から去ってゆく。だから鈴をつけて歩くなどして先にクマに気付いてもらい、不慮の出会いを防ぐことが基本なのだ。
だが、3番目のケースは用心していたにもかかわらず起きてしまった。渓流沿いは水音で鈴の音もかき消されてしまうので、見通しの悪いところではホイッスルを吹くなどより積極的に人の存在を示す必要がありそうだ。
ところが近年、人を恐れず近づいてくる個体が問題になっている。クマ撃退用唐辛子スプレーも売られているが、接近しなければ使えない、とっさに取り出せないと間に合わない、風向きによっては自分にかかる、1万円くらいと高価・・・と、万能とは言い難い。ああ、人間もスカンクのように、撃退ガスを体に内蔵していたらいいのに!
「でも、ツキノワグマは小さいし、なんとかなるんじゃない?」と思うのは、甘い。たとえば130㎝くらいの個体でも、まず敵わない。本書によれば「高速道路でクマとぶつかり車は走行不能なほど破損したのにクマは逃げて行った」そうだ。小柄でも、超マッチョ。その頑丈さは人間とは全然違うのだ。
東京の郊外にもクマはいる
では、襲われた人はどんな状況だったのか?
“ (登山道で)前方数10mから、突進して来る、黒い動物を発見した。(中略)脇のヤブに逃げる。そのまま登山道を直進してほしい、との願いもむなしく、クマは方向を変え私の顔を目がけて飛びかかってきた。(中略)どうしようもなかった。その後はもみ合いになり右腕、右足、そして顔を噛まれてしまった。 ”