(文:村上 浩)
作者:畑瀬 英男
出版社:東海大学出版部
発売日:2016-09-08
「将来の野外生態学を担う若者に刺激を与えるような楽しい本を提供する」ことを目的とする『フィールドの生物学』シリーズの最新作である。
本書『竜宮城は二つあった ウミガメの回遊行動と生活史の多型』のタイトルにある竜宮城とは、ウミガメの回遊先の餌場のことだ。ウミガメの餌場が二つあるということが、なぜ驚くべきことなのか、そこからウミガメの生態の何が分かるというのか。
本書では、著者が大変な苦労の末にかき集めた豊富なデータとともに、ウミガメの回遊行動を軸にその真の姿が明らかにされていく。
1人ではできないウミガメの研究
本書では、著者の研究者人生の苦楽もありのままに描かれており、研究生活の楽しさ、研究者を取り巻く環境の過酷さをリアルに感じることができるはずだ。大学院博士後期課程を終えて10年以上定職に就くことができていない著者の状況からも分かるように、日本の生態学研究者を取り巻く環境は決して良好とはいえない。著者はそんな状況を愚痴るわけでもなく、資金不足がもたらす困難もヒョウヒョウと乗り越えて、ハードな研究生活の中にも喜びを見出していく。