厚生労働省が公表している「日本人の食事摂取基準」は、1日50~60グラムのタンパク質摂取を勧めています。体の中で十分なタンパク質を作るには、そのぐらいの材料が必要ということなのですが、実はオートファジーは、それよりはるかに多い量を供給している。ある意味、食事以上に重要な“栄養供給源”なのです。
生まれたばかりの赤ちゃんの体内では、オートファジーが活発に起きています。へその緒が切れたあと、母乳からの栄養摂取を受け取れるようになるまでの新生児にとって、オートファジーは貴重な栄養供給源。マウスなどの実験動物でオートファジーを抑制すると、出産直後から激しい栄養不足状態に陥り、やがて餓死してしまうほど。それほどに重要なのです。
ガンや神経疾患の治療につながる可能性も
「ゴミ掃除」という言葉に、なんとなくネガティブなイメージを抱く人がいるかもしれません。確かに、新しいものを創造する営みに比べると、不要なものを処理する行為には、後ろ向きな印象を抱きやすいでしょう。
ですが、もし都市において、下水網やゴミ処理の機能が動かなくなったらどうなるでしょう。その瞬間から、私たちの生活は間違いなく、大変な影響を受けます。やがて衛生状態が劣化するにつれ、さまざまな病気が蔓延するに違いない。とても人が住める状態ではなくなるはずです。
オートファジーは、細胞の中がそんなふうに荒れていくのを防いでいる。このように考えると、この機能の重要性が理解できると思います。
オートファジーの異常は、パーキンソン病などの神経変性疾患やガンの発症と関わりがあることが、最近の動物実験で明らかになってきました。欧米では、薬を使ってオートファジーの過剰な働きを制御するガンの臨床研究が始まっています。オートファジーは今、医学や生命科学の分野で、最もホットなトピックの1つなのです。
さて、仕組みの解明や治療への応用は医学界にお任せするとして、「オートファジー」について知ることは、私たちが仕事や日々の生活をする上でも得るものが多いと、私は思っています。その話について、次回、お伝えしましょう。