ロシアの8月
8月はロシアにとり鬼門である。1991年8月19日、ソ連邦の首都モスクワでクーデター未遂事件が発生した。このクーデター未遂事件を契機に、ミハイル(M)・ゴルバチョフ/ソ連邦初代大統領とボリス(B)・エリツィン/ロシア共和国初代大統領間の力の均衡が崩れ、この年の末にソ連邦は解体された。
2000年8月12日には、北極海のバレンツ海で原潜クルスク沈没事件が発生。同年5月にロシア大統領に就任したばかりのウラジーミル(V)・ プーチン新大統領は対応に苦慮。1週間雲隠れして、世界中のマスコミから叩かれた。
この時のトラウマと軍の対応に不信感を抱いたプーチン新大統領は2001年3月、自分の盟友を国防相に任命した。それがソ連国家保安委員会(KGB)時代の同僚で、当時安全保障会議書記を務めていたセルゲイ(S)・イヴァノフ氏。軍人ではない文民国防相がロシアで初めて誕生した。
最近のプーチン大統領周辺人事は何を意味するのか?
ロシア・プーチン大統領の周辺人事が今、大きく動いている。
現在何が起こっているのか結論から先に言えば、プーチン大統領周辺の力の均衡が、旧KGB(ソ連国家保安委員会)第1総局(対外諜報/現SVR=対外諜報庁)と第2総局(国内保安/現FSB=連邦保安庁)重視政策から、旧KGB第9局(要人警護/現FSO=連邦警護庁)人脈重用に移りつつあると言えるだろう(プーチン大統領自身はKGB第一総局第4課勤務)。
すなわち、プーチン大統領は旧第9局人脈を登用し始め、SVR/FSB人脈のロシア政府内の要職や知事職を、徐々にFSO とその傘下のSPB(大統領警護局)人脈が占めるようになった。
2016年に入ってからの主要人事は下記のとおりである。
2016年2月:SPB出身のA.ジュ―ミン国防次官(43歳)がトゥーラ州知事代行に就任。
2016年4月:SPB出身のロシア内務省国内軍V.ゾロトフ総司令官が、4月に新設されたロシア国家親衛隊の総司令官(閣僚待遇)に就任。
2016年5月:Ye. ムーロフ(FSO)長官(70歳)からの辞職願を受理して、解職。
2016年7月:4人の知事と3人のロシア連邦管区大統領全権代表を交代。
2016年8月:プーチン大統領の盟友S.イヴァノフ大統領府長官(63歳)が辞任して、知日派のA.ヴァイノ大統領府副長官(44歳)が長官に昇格。
次の大物人事はロシアの次期首相人事になる。2016年9月18日にロシア下院(正式名称「国家会議」定数450議席/日本の衆議院相当)選挙が実施され、下院選挙後に内閣は改造される。
では、上記一連の人事異動が何を意味するのか、プーチン大統領は何を求めているのか考察したい。