地域の民生委員がつくり始めた「要援護者マップ」とは
──この他にも、輪島市で行われている取り組みはありますか。
稲垣 いくつかありますが、有名なのは「要援護者マップ」の作成です。
要援護者マップとは、要介護認定者の人や障がい者の方など、災害で援護が必要になる人の所在や病状等を地図上に落として一覧化したものです。ここで重要なのは、マップを作り始めたのが役所ではなく現地の民生委員や区長(平成8年の作成開始当時)だったということです。彼らがあくまで日常的な付き合いから知り得る範囲の情報や、各世帯の状況をマップに落とし込んでいったのです。つまり、要援護者マップを作り始める上でのキーパーソンは民生委員や区長になります。なお、現在では民生委員がこのマップを更新しています。
──そういった情報は、市や役所が統括して把握したほうがいいと思ってしまいますが・・・。
稲垣 輪島市は広域にわたり、しかも山間部で移動にも労を要します。その中で市の担当者が管理・統合できる情報には限界があるんですね。逆に、民生委員が個で把握する方が情報量としては多くなります。民生委員は自身も地域に暮らしていて、しかも公務員に準じる扱いを受ける特別職という異色の存在。個人的な付き合いもできるし、個人情報を扱う権利もあります。
要援護者マップも、民生委員と社会福祉協議会のみしか把握していません。市当局とは共有していないんです。住民寄りの民生委員が主体となったことが、システムの継続を生んでいます。
市民を“見守る”ため、市と業者が連携したサービス
──行政が垂直的に行うのではなく、まさに地域のさまざまな人が連携しているわけですね。
稲垣 その意味でもう1つ紹介したいのが、輪島市の「地域貢献みまもり事業」です。先ほど出てきた民生委員も、市全域の要介護者やその“予備軍”となる人たちを毎日見に行ったり、情報を入れたりすることはできません。
そこで輪島市は、日常的に住民と接触機会をもつ民間業者に“みまもり”の協力を依頼します。郵便局や電力会社、ガス会社、新聞配達、ヤクルトのような宅配サービス業者などですね。こちらも福祉避難所に尽力した河崎さんがキーパーソンとなって構築されました。