【連載第1回】今、日本の農業は変わらなければならない。食料安保、食料自給率、農業保護などにおける農業政策の歪みにより日本農業は脆弱化し、世界での競争力を失った。本連載では、IT技術を駆使した「スマートアグリ」で世界2位の農産物輸出国にまで成長したオランダの農業モデルと日本の農業を照合しながら、日本がオランダ農業から何を学び、どのように変えていくべきかを大前研一氏が解説します。
なぜ今、オランダに学ぶべきなのか
政治が何十年も遅れている典型例、お荷物農業
2015年10月、TPPが大筋合意に至った今、日本の農業は政策を抜本的に見直す局面に来ています。今回は、「スマートアグリ」と呼ばれるオランダの農業を学びながら、同時に日本の農業問題を考えます。
戦後の復興を経験した世代は、日本の農業が「ひもじい胃袋を満たしてくれる」ありがたい存在として歓迎されていた時代をご存知でしょう。しかし、時を経て気づけば現在、ある意味では農業が政治的あるいは国民的にも負担になってしまっている。これは、政治が世の中から何十年も遅れている、という典型例ではないでしょうか。
オランダの農業から日本は何を学べるか
実は、今回世界の最先端をいく事例として紹介するオランダの農業も、過去に今の日本のような苦境に立たされた時期がありました。
1986年、EC(欧州共同体、以下EC) にポルトガルやスペインが加盟した際、安価な外国産の野菜が多く流入し、オランダの農業が壊滅的な状況に陥ったのです。