JVCケンウッドは、なぜオープンイノベーションを進めることができたのか。

 JVCケンウッドは、従来の「製造販売業」から、顧客の課題を解決するソリューションを提供する「顧客価値創造企業」への進化を図っている。「オートモーティブ」「パブリックサービス」「メディアサービス」の3つの事業分野に次ぐ、第4の柱を構築する上で必要なものが、新規事業の創出であり、イノベーションである。

 今後もディスラプティブな変化が次々と現れることが想定されるが、当社はその波にも適応し、変革を当たり前にできる状態になりつつある。そのアドバンテージは受動的な側面に止まらない。それは共創の組織能力として、能動的に発展する可能性を感じさせる。

 JVCケンウッドの新規事業創出の取り組みは、意図的でない部分もあったかもしれないが、既存事業とは異なるイノベーションの力学の要所を非常にうまく押さえた事例といえる。実際に、一連の取り組みの中から生まれたテレマティクス事業を中心とするDXビジネス事業部は、2020年3月期で100億円規模の事業となる見込みで、成功事例の1つとしてベンチマークに値する取り組みだろう。

 以下、その成功要因について考察する。

【第1回】「JVCケンウッドが社外との共創で成果を出せた理由」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57629)

社内に異なる論理を共存させる

 イノベーションを成功させる上で押さえるべき要所(Why/What/How)については、これまで多くの方法論が提案されており、ある意味、語られ尽くされたトピックだ。大企業においては、いわゆる「左脳的な」観点での新事業創出の要所があり、スタートアップにおいては「右脳的な」観点での事業成長の要所があり、それぞれが共有・実装されてきた。

 しかし、今回のJVCケンウッドの事例は、別々に語られてきたそれら要素の捉え直しに、成功の鍵があることを示唆している。つまり、「左脳的な」観点と、「右脳的な」観点でのWhy/What/Howを理解し、その両要素をうまくミックスすることで、(左脳的な方法論を取りがちな大企業において)大きなモメンタムを形成できる可能性があるということだ。

 その概念はチャールズ・オライリーとマイケル・タッシュマンによる『両利きの経営』やエリック・リースの『スタートアップ・ウェイ』に詳しいが、一見矛盾する対極のアプローチを共存させることはイノベーションにとって重要なのだ。