さらに社外との取り組みにおいては、既存事業分野や技術部門とのオープンな調整の役割に加え、自らが事業化を担う役割も背負う。今や、サラリーマンを超越した起業家のような役割だ。

スタートアップ的な挑戦の勧め

 不透明な未来は、今や読むものでなく意思を持って作るものとの解釈が少なくない。これだけ個人のエンパワーメントが進んだ環境では、従来の価値基準で常識的と考えられるものは疑うべきだろう。大企業が自ら疑わなくても、スタートアップが疑って次々と挑戦してくるはずだ。レガシー企業にとっての中核事業の転地、転換は、自己破壊的で矛盾に満ちた手続きである。

 ただし、新しい顧客や社会的な価値を実現する代替的なサービスやビジネスモデルは、企業にとって回避すべきものでなく、むしろ自ら向き合うべきものでもある。少なくともJVCケンウッドは、上述のようにそれらを実践している。

 当社が内部化しつつあるスタートアップ的な視点は、レガシー企業にとってのイノベーション実現において十分ではないが、必要な条件といえるだろう。経営の役割や体制も重要だが、それには社内にゼロから始める起業家のように動ける人材がないことには始まらないし、当然機能化には至らない。

 存在しないプレーヤーを嘆くより、まずは空気を読まない提言をスタートアップに求めてはどうだろうか? 社外と共創しうる可能性に加え、一方で自社が本当に挑戦すべき事の解像度が一気に高まり、異なる論理の間で振り子が動き出すきっかけになるはずだ。人材も置かれた立場とその過程で育つ。

 スタートアップ界隈ではよく知られる格言に「スタートアップは反直感的である」というものがある。これは、スタートアップが敢えて大企業やレガシー企業がやらないことを狙うべき存在であるという意味もあるが、理屈的に考えて自己正当化をしてしまう確証バイアスへの戒めといえる。

 大企業的な「左脳」と、スタートアップ的な「右脳」の両方の要素をうまくミックスすることがリソースフルなレガシー企業のイノベーションにとって非常に重要な要素であり、また社外、特にスタートアップとのオープンな共創はその駆動手段となりうるといえるだろう。

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 なお、JVCケンウッド、ADL、Crewwの本稿当事者がパネラーとして参加するイベントを、10月4日(金)の夜に実施する。本記事の内容に興味を持たれた方は、ぜひ参加されたい。(イベントページ:https://peatix.com/event/1327440/view

(第3回へ続く)