左脳的(深化的)な視点での新規事業創出
まず、左脳的な観点で彼らの取り組みを振り返ろう。
(1)Whyとして、まず、2007年の日本ビクターとケンウッドの資本業務提携に象徴されるように、当社には映像・音響機器市場の激変に対する強烈な危機感が醸成されていた。ある意味、「機が熟した」状況にあった。そのようなベースの風土醸成は間違いなく重要だ。
だが、それに加えてWhyを強化したのは、新たに掲げた「顧客視点」というコンセプトである。自社を起点とした事業開発ではなく、顧客の喫緊のニーズを起点とした新事業開発を徹底したことで、「お客さんが今すぐにでもこのサービスを欲しいと言っているから、早く意思決定をしてくれ」と、社内にある種の強制力を働かせることができた。
これは、なんだかんだ言って既存事業を優先しがちな大企業の社内力学を突破する1つのアプローチとして、応用性が高いものではないだろうか。
(2)Whatとしては、既存事業とは一旦線引きしつつ、「ブランドイメージに合致するもの」という形でスコープを設定している点は、特筆すべきだろう。これにより、既存事業や技術に過度に引っ張られることのないよう自由度を担保した上で、緩やかに戦略的なアラインメントを取ることができたと言える。
新規事業に向けた取り組みは、自由にスコーピングできるが故に、ともすれば戦略的な意義の少ない散漫な取り組みに陥りがちであるが、初期の段階でこのような緩やかな戦略的なアラインメントを取っておくことで、自社の既存事業とシナジーのある根幹事業に育てやすくなる。
さらに、(3)Howの取り組みも面白い。社内において、KPIや運営方針の異なる組織=出島を作り、それに対して十分に権限移譲を行うことの重要性は、昨今では広く認識されているところだ。
これに対し、JVCケンウッドが特徴的なのは、出島に「外部の勢いを社内に取り込む役割」を明確に持たせている点だ。自社内でアイデアが創出されやすい環境を整えることはもちろんのこと、アクセラレータープログラムを通じて外部のスタートアップと協業することで、事業化に向けた推進力を補強し、「アイデアはたくさん出るが、所詮アイデア止まりとなってしまい、次第に減速する」という、昨今顕在化しつつある「陥りがちな罠」に対処している。
また、そのような外部との活動を社内に発信することにより、社内の風土やマインドセットの変革を試み、実際にその効果が得られつつあるという点で、まさに「出島」としての役割を効果的に実装することができているといえる。