その理由は、今回の事故の根底には、社会のIT化に伴う、もの作りに関するパラダイムシフトがあり、それが事故の遠因になっている可能性が高いからである。根本的な部分をそのままにして、個別の要素に対策を施しても、全体への効果は限定的である。

 報告書でも指摘されているが、事故の発端となった姿勢の検知手法については、実際に星の位置を観測して得られる正確な情報よりも、制御系システムによる推定値を優先する設計になっており、これが事故を招くきっかけとなった。

 だが、正確に検知することばかりを優先していては、観測時間が犠牲になり、最大のパフォーマンスを出すことができなくなってしまう。“システムによる推定値を優先しながら、必要に応じて、より完璧な測定結果のフィードバックを受ける”という、ひとみの設計思想そのものについて、筆者は大きな欠陥があるとは思わない。しかし、問題は程度である。

 IT化が進んだ今、こうした推定値や予測値を用いて、システムのコントールを行うことは半ば常識となっている。だが、これをうまく稼働させるためには、全体を俯瞰的に見る視点と、何より絶妙なバランス感覚が求められる。つまり、IT時代に特有のセンスが求められるのだ。

グーグルはどうやって100万台のサーバーを管理しているのか?

 ここで言うところの「IT時代のセンス」とはどのようなものだろうか。グーグルを例に取って考えてみよう。

 グーグルは、電子メールのサービスやクラウドを使ったデータ・ストレージ・サービスをグローバルに提供しており、たった1社で100万台を超えるサーバーを管理していると言われる(これは日本国内のすべてのサーバーの台数の3分の1に達する)。