そのため、外交関係の悪化が周辺諸国との経済関係にマイナスの影響を及ぼさないかと懸念されています。地域でもめていると、外国企業が投資をためらい、その面でも影響も出てくるかもしれません。
――なぜ、そうまでしても独自路線を貫くのでしょうか。
細井:中東の湾岸で新しい産業を興そうとしたら、石油中心の経済構造はどこも似ているので、いかに差別化するかを考えなければなりません。
また、地下資源への依存から脱却する上では、先に商業国として成功を収めたドバイの存在をかなり意識しています。ドバイの二番煎じは避けたい、ドバイにないものを、ということでカタール政府の出資で作られたのが中東初の衛星テレビ局「アルジャジーラ」です。他には、外国の大学を誘致するなど教育にも注力しています。
カタールの至上命題は、とにかく国家のブランド力、そして知名度を高めることです。いまだに「W杯をカネで買った(The Ugly Game: The Qatari Plot to Buy the World Cup)」と報じられた献金疑惑がくすぶっていますが、世界的なスポーツの祭典の開催地に内定したことは、まさに悲願が叶ったと言えるでしょう。
W杯に向けた課題は1つ2つでない
――W杯に関しては、誘致における不正疑惑のほかに、外国人労働者の待遇も問題視されているようですね。
細井:カタールには元々インド、パキスタン、ネパールからの多くの出稼ぎ労働者が来ていますが、W杯に向けてスタジアムや各種インフラの工事が始まって以降、さらに中国やアフリカなどからも多くの労働者が入っています。
しかし、街中で労働者を見かけることは稀です。彼らは「レイバーキャンプ」という砂漠の真ん中、建設現場の外れあるプレハブなどに住まわされているからです。
カタールは夜でも気温は40度近く、夏の日中には50度にもなる非常に過酷な地です(ただし公式天気予報が45度以上になることはない)。すでに多くの外国人労働者の犠牲者が出ていると、世界中の人権保護団体やNGOが強く批判しています。
カタール政府も当初は「W杯の工事とは関係ない」としていましたが、夏場日中の労働時間の制限や、給料の未払い防止のため口座振り込みに限る「賃金保護システム」の導入などの対応をとるようになってきています。
しかし、これから納期が迫れば労働者が酷使される懸念が一層強まります。また前述のように、W杯誘致問題でカタール政府が追い込まれれば、そのしわ寄せを最も喰らうのは現場で働く労働者でしょう。
――W杯に向けたインフラ整備には日本企業も参入していますね。
細井:三菱重工業、三菱商事、日立製作所、近畿車輌、Thales(フランス)の5社連合で、カタール鉄道会社から「ドーハメトロ」と呼ばれるカタール初の地下鉄システムの受注内示を獲得しています。
また、三菱重工業は地域冷房プラント用の大型ターボ冷凍機も納めています。他にも海水の淡水化や発電などの分野で多くの日本企業が事業に携わっています。
中東というと遠い国の話のようですが、カタールは特に日本との関わりも深い国なので、W杯の開催期間中だけでなくきちんと目を向けていく必要があるでしょう。