岐阜県飛騨市の神岡鉱山内にある大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」内部の様子(提供:東京大学宇宙線研究所)

 2016年2月、「重力波の直接検出に成功した」というニュースが世界を駆け巡った。アインシュタインがその存在を予想してから約100年後のことだった。

 今回成功したのはアメリカを中心とする研究チームだったが、日本の重力波観測装置「KAGRA(かぐら)」が2017年度中に稼働する予定だ。

 重力波の観測によって、これからの天文学はどう変わり、私たちの宇宙観はどう変わるのだろうか。

 前篇では、今回の重力波観測の舞台裏と、KAGRAの施設完成に至るまでの道のりを紹介する。後篇では、KAGRAの本格的な稼働に向けた課題と、未来の重力波天文学について紹介する。

なぜ研究者は重力波を追い求めるのか

 最初に、重力波について簡単に理解しておこう。本記事を執筆するにあたり取材に応じてくれた、東京大学宇宙線研究所重力波推進室の川村静児教授も重力波検出の一報を聞いたときは「嬉しすぎてスキップしたくなるほど」だったという。

 それほど研究者を魅了する重力波とは、一体何なのだろうか。

川村静児氏。東京大学宇宙線研究所重力波推進室教授。理学博士。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。専門は重力波物理学。現在、KAGRAプロジェクトのサブプロジェクトマネージャーとして、KAGRAのコミッショニングの取りまとめを行っている。共著書に『21世紀の宇宙観測』がある。

 質量をもつ物体の周囲では、空間と時間(時空)がゆがむ。この時空のゆがみこそが重力であるとするのが、アインシュタインの一般相対性理論だ。重力によって時空がゆがむのではなく、時空のゆがみそのものを重力として感じるのである。

 そして、質量をもつ物体が移動すると、時空のゆがみが波として空間に伝わるとアインシュタインは提唱した。この現象が「重力波」だ。

 重力波は光速で伝わり、あらゆるものに邪魔されないという特徴をもつ。

 例えばブラックホールは、光速をもってしても逃げ切れないほどの重力場(質量によって時空が歪んだ、つまり重力がある状態)をもつので、光(可視光)を含む電磁波ではブラックホールを直接観測することはできない。電磁波から分かるのは、周囲の様子だけだ。