誤解を避けるため、あえて言うが、グレーゾーン事態で自衛隊が行動できる法改正が必要でないと言っているわけではない。グレーゾーン事態のように武力攻撃事態ではないが、自衛権の行使が必要になる場合(これまで「マイナー自衛権」と言っていた)、状況によっては間髪を入れず自衛権を行使(警察権ではない)できるようにしておくことは欠かせない。
その態勢を整えたうえで、最後の最後まで自衛隊を投入しないことが重要なのだ。それこそが紛争を抑止し、事態の悪化や拡大防止の最善の策となる。
ちなみに「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告では、「マイナー自衛権」という言葉は「国際法上未確立。国連憲章51条の自衛権の観念を拡張させていたるとの批判を招きかねない」として使用しないとした。
その一方で「各種の事態に応じた均衡のとれた実力の行使も含む切れ目のない対応を可能とする法制度について、国際法上許容される範囲で、その中で充実させていく必要がある」と法整備の必要性を明記している。
海上警備行動に自衛隊は間違い
この法整備をしないまま、「警察権」行使だからといって安易に自衛隊を出動させるのは避けるべきである。それこそ将来に禍根を残すことになりかねない。これは「運用でカバーする」とした安倍晋三政権の課題でもある。
菅義偉官房長官は12日の記者会見で、沖縄県・尖閣諸島周辺の領海に中国軍艦が侵入した場合、海上警備行動を発令して自衛隊の艦船を派遣する可能性があるとの認識を示した。政府は既にこうした方針を中国側に伝達したという。
「軍には軍を」ということは国際的な常識である。今回の措置は抑止力にもなるだろう。だが、「海上警備行動」を根拠にするのはいただけない。
「外国軍」に対し、国内の「警察権」は通用しない。手足を縛られて苦労するのは海上自衛隊である。だが、現実的には「海上警備行動」しか根拠がないのも事実である。まさに政治の怠慢がここにある。
民主党と維新の党の良識ある議員たちによって、「領域警備法案」が提出された。いまだ不十分な内容ではあるものの、与党はこれを無視するのではなく、これを奇貨として議論を進め、安保関連法案の穴を埋めてもらいたい。