とはいえ、安倍内閣が現行法制の「運用でカバーする」として、手をつけなかった「グレーゾーン事態」について、「領域警備法案」として法案化したことの意義は積極的に認めたい。
この法案について、ウエブサイトで概要を次のように説明している。
「領域警備法案は、離島などわが国の領域で武力攻撃に至らない、いわゆる『グレーゾーン事態』が生じたとき、警察機関や自衛隊が適切な役割分担のもとで迅速な対応を可能とするためのもの。海上保安庁が平素から行う警備を補完する必要がある場合に自衛隊が海上警備準備行動を行うことや、領域警備区域を定めた上で、その区域内で治安出動や海上警備行動等に該当する事態が発生した場合には、あらためて個別の閣議決定を要せずに、迅速にこれらの行動が下令できるようにすること等を定めている」
この法案を読んで2つの懸念が浮んだ。
先に自衛隊投入は中国の思う壺
1つ目は、グレーゾーン事態における自衛隊の投入を安易に考えているのではないかという懸念である。
グレーゾーン事態とは、例えば漁民に扮した武装民兵が尖閣諸島周辺の領海を侵犯したり、上陸を企て占拠したような事態だ。つまり、「警察事態か防衛事態か」「犯罪か侵略か」が明確でなく、「法執行か自衛権行使か」「武器の使用か、武力行使か」に迷う事態である。
このような事態に対し領域警備法案では、まずは法執行機関として海上保安庁や警察が対応する。それで対応できない場合、自衛隊が海上警備行動、あるいは治安出動を根拠に投入されるという構想である。この考え方は、基本的には安倍政権の考え方と同じである。
だが筆者は、与野党問わず、自衛隊の投入自体の考え方が、そもそも安易すぎるのではと懸念している。自衛隊は国際的には軍隊である。軍隊は最後の手段であり、軽々に投入すべきではない。しかも、海上警備行動、治安出動は「警察権」の行使であり、法執行の補完である。従って投入される自衛隊の権限も警察権行使に縛られる。
米国の連邦軍も領域内での法執行は米国憲法で禁止されているように、最後の手段としての自衛隊は、基本的には法執行には投入すべきではない。軍とは国内法が及ばないところで活動する武力組織なのだ。
ギリギリまで、つまり相手が正規の軍隊を投入し、自衛権行使の必要性が出てくるまでは自衛隊は出動させるべきではないし、またしてはならない。まして警察権行使に限定という手足を縛ったまま自衛隊を投入することなぞ、百害あって一利なしである。