北キプロスの古い建物(資料写真)

 瓢箪から白ワインが出る、タンクの蛇口から赤ワインが出る。

 タラモサラダはつまみらしく塩っぽく、地中海風の納豆は苦々しい発酵臭の中にある。人びとは毛むくじゃらで大声で陽気で酒臭く、歌声とともに延々とワインをこぼし続ける。

 私はワイン祭りでほろ酔いになりながら、つい昨日、越えて戻ってきたばかりのニコシアの「国境」のことを思い出していた。

 大きさといえば四国の半分にも満たない島国キプロスの中にはワインの産地があった。そのうちのひとつの町では、毎年9月になると収穫祭ならぬワイン祭りに湧く。大きな公園が開放されて、1ユーロのコインを払うとワイングラスがひとつ渡される。そのグラスを持って公園の中をひらり、ふらり、ワイン飲み放題の旅に出る。

 ワンコイン・ワインの旅は観光客を泥酔させるのに十分で、私も一緒に赤ら顔で歌を歌ってみる。心地よい夜の潮風。余裕のある街並み。隣に動物園。

ワインフェスティバルの様子(筆者撮影)