私も含め団塊の世代は、90歳近い自分たちの親の介護をしつつ、いつ自分たちが介護を必要とする側になるかを不安に考えて過ごしている。

 人生を平穏のうちに終えるのはなかなか大変である。ふと10年、20年先の未来を考えることができた30~40代が懐かしくなる。しかしあと10年もすれば、団塊の世代も75歳以上となり、否応なしに、自らが介護される世代になる。

 情けない話ではあるが、現在の医学をもってしても、薬物療法で認知症を完全に治すことも、完全に予防することもできない。口の悪い私の友人は「認知症になりたくなければ、認知症になる前に、がんでこの世を去るしかない」などと不謹慎なことを言っている。

神経細胞が長生きだから、認知症は起こる

 そもそも、認知症は治せるのか? 現在使われている認知症の治療薬はどんなもので、根本治療薬や予防の可能性はないのだろうか。

 それを知る上では、まず認知症のメカニズムを簡単におさらいしておく必要がある。知っておいてほしい生物の知識として、私たちの体の組織はそれぞれの機能を司った細胞から構成されており、組織や細胞はさまざまな寿命(ライフサイクル)をもっている。

 大部分の組織ではDNAの変異により細胞はがん化し、発見が遅れた場合には転移し、進行を止められなければ死に至る(つまり、がんが死因の1位なのは当然なことでもある)。例えば、大腸の上皮細胞ががん化すれば、大腸がんになるが、小腸の上皮細胞は非常に速いライフサイクルで産生されるため、がん化する前に死んでいく。

 一方、神経細胞は長いライフサイクルをもっており、特定の条件下でない限り、再生することもがん化することもないが、寿命が長い分、老化とともにタンパク質の生成と分解が正常に行われなくなる危険性をもっている。ただし、脳を構成する細胞には、神経細胞以外に、増殖能をもったグリア細胞等があり、これらはがん化し、脳腫瘍(グリオーマ)となる。

 つまり、誰にも訪れる老化とともに、認知症の原因として知られる「タウタンパク」や「アミロイドタンパク」の分解がうまくいかなくなり、脳の特定の領域に蓄積することで、さまざまな認知機能の異常が症状として現れてくる。