イスラム教徒の多いインドネシアでは、テロリストを生み出さないための様々な融和策が考えられている。テロリストの多くは青少年のため、まず学校教育でテロというものの非合法性や非人道性などが徹底的に教えこまれる。
そのほか、考えられるありとあらゆる手段が講じられている。しかし、それでも新たなテロリストが次々と生まれてしまう。
そもそも、人はテロリストとして生まれてくるわけではなく、テロリストは後から作られるのである。私はこれを「Not born, but made.」と表現している。人間がテロリストを作りだしているのであれば、テロを根絶する手法は何かしらあるはずである。
日本の「脱カルト」手法がテロ対策の最も有効な手段
そのテロ対策に最も本質的で有効な対策の1つが、実は日本の「脱カルト」の手法ではないかと考えている。
私は長年「統一教会」(韓国に本拠地を置く新興宗教団体で、悪質な霊感商法を展開している)や「オウム真理教」(日本に本拠を置く新興宗教団体で、1995年には東京の地下鉄にサリンをまく無差別殺人テロを実行して解体されるが、名称を変えて現在も活動を続けているメンバーがいる)などの宗教カルトによる被害者の救済に関わってきた。
1995年3月20に起きた地下鉄サリン事件で手当てを受ける被害者〔AFPBB News〕
彼らの救済にとって特に大切なのが、信者たちに施された「マインドコントロール」を解く「脱会」のためのカウンセリングなのである。
カルト宗教やマインドコントロール、そしてそのコントロールを解く取り組みは、米国をはじめ世界各地に存在している。しかし、その中で、マインドコントロールを解くカウンセリングのきめ細かさでは、日本は群を抜いている。
実際、1995年という早い時期に「地下鉄サリン事件」のような無差別殺人事件が起きていることもあり、日本には様々なノウハウが蓄積されてきた。
私もそうしたノウハウを数多く発見し蓄積してきた1人である。オウム真理教事件などを裁く法廷に、数多くの心理鑑定書も書いてきた。「地下鉄サリン事件」の実行犯に関しては、過半数の被告人の心理鑑定を行って、マインドコントロールの実態を細かく調べてきた。
「振り込め詐欺に私は無縁」はあまりに危険
「宗教カルト」を例に挙げると、日本では多くの人たちが「自分がまさか引っかかるはずはないさ」と、自分たちとはまるで無縁な存在かのように思っている。しかし、それは全くの誤解だ。
その証拠に、「ワンクリック詐欺」「振り込め詐欺」などの犯罪が、社会全般に急速に広まっている。これらは、カルト宗教家が使うのと同種のマインドコントロール手法を使っているのである。
私は専門的な研究や法廷への心理鑑定書提出などと並行して、雑誌やテレビ番組などを通じて、蔓延し始めたマインドコントロールの危険性と、その背景となる心理学メカニズム理解の重要性を広く社会に呼びかけてきた。
正しい理解こそが、こうした犯罪を予防する最大の力になるからである。
このように、宗教カルトに始まり、ワンクリック詐欺、振り込め詐欺などの対策として、日本国内で社会心理学を駆使した様々な対策が積み重ねられてきた。この世界にもあまり類を見ないこまやかな「マインドコントロール」対策の取り組みが、世界規模で進んでいるテロの脅威に対抗する、最も強力な手段として、期待されるようになってきたのである。
次回は、その対策の実際をいくつか紹介する。
この記事は海外向けに英語でも発信しております(この記事の英語版はこちら)。
編集協力=山田 唯人

