前回は、日本車メーカーがモード試験対応策に特化した「お受験テクニック」によって自分たちが送り出すクルマの公称燃費を向上させてきてはいるが、現実の道路を一般の人々が走らせた時の「リアルな」燃費は決して向上しているわけではないことを、マクロデータの分析を基本にお伝えした。
今回は、まず私自身が測った「実用燃費」から、そうしたクルマたちの「実力」を紹介し、さらに広く世界に目を向けながら、本来あるべき「エコカー」の姿について考えてみたい。
日本の自動車メーカーが「お受験」に特化し(それは燃費だけでなく、公的に評価されてデータが公開される「性能」のほとんどに対してだが)、リアルワールドで自分たちの製品の実力と資質を磨くことを怠っている間も、世界の自動車社会と自動車技術をリードする常に意識している欧米の自動車メーカーは、そのプロダクトを刻々と進化させている。
こと「燃費」に限っても、「CO2削減」を社会全体の目標として掲げ、具体的な改善を実現すべく取り組む欧州のクルマたちの実力は、確実に、そして大幅に上がってきている。それも彼らがクルマと生活する現場で、一番多く使うような走行パターンの燃費がちゃんと伸びる。
ドライバーにとって「クルマを操る」実感も、燃費を重視した反動で薄れるどころか、むしろ力の細かなコントロールがしやすく、走らせやすいものも増えている。
実は、この「運転のしやすさ」こそ、様々なドライバーが、様々な状況でクルマを走らせた時に、燃料消費が極端に増えないための重要な資質なのだが、やはりそれに気がついている日本の技術者、研究者は少ない。
国産車の10-15モード燃費は現実の燃費の指針にならない
一例として、ここ1年ほどの間に行われた新車試乗会の現場で、私が運転し、燃費を確認した結果を紹介しよう。燃費は、各クルマの計器盤にある区間燃費計で確認した。
いずれも試乗したのは、横浜周辺の同じコース。平均速度も時速30キロ強、というところでほぼそろっている。もちろん私の運転もほぼ同じパターン、かつ、それぞれのクルマでできるだけ燃費が良くなるように走らせている。
ただし、車両の計器表示の「較正」はしていないので、その分のばらつきは残る。ちなみに日本車は数%~10%ほど甘い(良い)数値が出るものがほとんど。ドイツ車はほぼ正確、というのが最近の経験則だ。
この私的評価コースで、日産自動車「マーチ」が「15キロメートル/リットル」(10-15モード燃費は「26キロメートル/リットル」)。ハイブリッド動力のホンダ「CR-Z」がCVT仕様、6速マニュアルトランスミッション仕様ともに「17キロメートル/リットル」(10-15モード燃費はCVT仕様が「25キロメートル/リットル」、6速MT仕様が「22.5キロ/リットル」)だった。
CR-Zの場合、アクセルの踏み方を少し雑にするだけでCVT仕様の方が燃費の悪化が極端に表れる。中高速で巡航を続けられる状況ではMT仕様の方が10%かそれ以上良い。これはベルトなどで連続変速ができるトランスミッションであるCVTと、歯車式変速機の特性に関する一般論としても通用する。つまり、「CVTはモード燃費は良くなるが、実用燃費は悪化しやすい」「特に巡航燃費は本来よくない」ということだ。力と回転を伝える機械としての効率そのものが低いためである。
対して、フォルクスワーゲン「ゴルフ・トレンドライン」、新しい1.2リットル過給エンジンと7速デュアル・クラッチ・トランスミッションを搭載した仕様が「17キロメートル/リットル」(10-15モード燃費は「17キロメートル/リットル」)。同じく「ポロ」の1.4リットル自然吸気エンジンを積んだ仕様(現在は1.2リットル過給エンジンに変更)がやはり「17キロメートル/リットル」(10-15モード燃費は「17キロメートル/リットル」)。