「良いモノを開発してもそれに対して顧客が価値を認めてくれない」。日本の製造業の付加価値率が長期的に低落している1つの原因がこの点にあることを前回の記事では述べた。

 では、どうしたら顧客に高い価値を認めてもらうことができるのか。今回はこの課題に対応する上での1つの考え方を提示したい。

付加価値が生まれないのは必要以上に安売りしているから

 まず、以下のエクササイズ(練習問題)を考えてほしい。

 「あなたの製品を購入することによって、それぞれ、以下の価値を実現できると考えているA~Eの5人(もしくは5社)の顧客がいます。

 A:1000円  B:900円  C:800円  D:700円  E:600円

 顧客はそれぞれあなたの製品を1つだけ必要としているものとします。また、製品コストは、売上数にかかわらず700円であり、競争相手はいないものとします。利益を最大にする方法を考えてください」

 まずは、「誰にいくらで売ればいいだろうか」と考える読者が多いと思う。一物一価であれば「900円」と値付けをして、顧客Aと顧客Bに販売するのがいい。そうすれば400円の利益を得ることができる(いわゆる独占価格である)。

 もし顧客ごとに異なる価格で販売することが可能ならば(「B to B」ではよくあることだ)、A、B、Cの顧客に、それぞれが認める価値と等しい価格で売れば、最も多くの利益である600円を得ることができる(いわゆる差別価格である)。ここまでは初歩的な経済学の話である。

 だが、現実にはそう簡単にはいかない。差別価格が良いと分かっていても、顧客があなたの製品に認めている価値に関する情報が、あらかじめ与えられているわけではない。価格交渉を仕掛けてくる顧客がそれを易々と教えてくれるわけもない。それどころか、顧客自身さえ、その価値を正確に把握できていないかもしれない。

 優れた製品が付加価値を生まないのは、その製品に本来的に価値がないからではなく、その製品が顧客にとってどれだけの価値を持つのか、異なる顧客がいかに異なる価値を認めているのかということを、自社が理解できていないことが原因であることが多い。つまり、適切な価格設定ができずに、必要以上に安売りをしてしまっている可能性があるのだ。

適切な値付けで自社と顧客の双方が価値を獲得

 ある製造企業の役員の方から次のようなエピソードを聞いたことがある(数字は覚えていないので、以下の数字は正確ではない)。