特集 航海時代

技術を価値に変えるための2つの戦略

2010.04.09(Fri) 青島 矢一

イノベーションを斬る

upperline

イノベーションは経済価値をもたらす革新である。つまり、「革新」と「経済価値」の実現が両立して初めてイノベーションは成立する。

 前回の私のコラムでは、これら2つの側面のうち、事業化に至るまでの「革新」のプロセスに焦点をあてて、経済合理性の過度な追求に伴う危険性を指摘した。今回は、「経済価値」の部分に焦点をあてて、日本の製造業が抱える問題と解決策を議論してみたい。

技術進歩とグローバル化が付加価値の低下をもたらす

 「技術はあるのに利益が出ない」。日本の製造業の長期低迷を描写する時によく言われる言葉だ。確かに日本の製造業の付加価値は長期的に低落傾向にある。

付加価値(対売上高)の長期低落傾向(法人企業統計より、電気機械器具製造業・資本金10億円以上を抽出)
拡大画像表示

 右の図は、電気機械産業における大手企業の付加価値の推移を示したものだ。1975年には25%あった付加価値率が2008年には12%にまで低下している(もちろん付加価値の低下には様々な要因が絡んでいる)。

 ただし、付加価値の低落傾向は必ずしも日本企業に限ったことではない。特に半導体技術の進歩の恩恵を受ける産業では、世界的に付加価値の獲得はますます難しくなっている。

 その理由としては、「技術進歩のスピードが速くなった」ことと「グローバルな競争が激しくなった」ことが関係している。

 企業が付加価値を獲得するには、(1)製品やサービスに顧客が、コスト以上の価値を見出すとともに、(2)同じような製品・サービスを供給する競合企業が多数存在しないことが条件となる。つまり、「使用価値」と「希少価値」の存在が付加価値確保の条件となる。

 ところが技術進歩とグローバル化の進展によって、これら2つの条件が成り立ちにくくなった。

 まず、技術進歩のスピードが増大することによって、我々が本来持つ物的欲望の多くは、極めて早い間に満たされるようになってしまった。これは1.5~2年ごとに集積度が倍になるという「ムーアの法則」に沿った半導体技術の進歩による部分が大きい。製品は短期間で顧客の満足度水準を超えるようになり、そうなると、顧客はそれ以上の性能向上に価値を見出さなくなる。結果、企業は価格で勝負するしかなくなる。これがコモディティー化という現象だ。

維持できなくなった先行企業のアドバンテージ

 技術進歩とグローバル化は、企業の付加価値の獲得を困難にしただけではない。市場における早期の競争激化をもたらし、技術的に先行する企業の開発投資の回収も難しくした。

 製品が最初に市場に登場する時、その性能と価格は一般の顧客を満足させるレベルにはない。技術が進歩して、価格性能比が向上することによって、徐々に一般顧客に受け入れられるようになる。一般顧客に浸透すれば大量生産が可能になり、さらにコストを下げることができる。

 かつては、技術的に先行する企業がこの好循環をいち早くとらえ、優位性を維持できた。しかし、半導体技術の急速な進歩とグローバル化の進展によって、この構図が崩れた。

 まず、半導体技術の進歩とグローバル化とともに技術が素早く、かつ広範囲に伝播し、技術の模倣がしやすくなった。また、半導体プロセスの汎用性ゆえに、多くの新産業で、後発企業が急速に市場で台頭するようになった。

 液晶パネルや太陽電池産業はその典型例だ。日本が技術開発を先導した液晶パネルで、日本勢のシェアは15%にも満たない(2008年)。残りはほとんど韓国と台湾企業によるものだ。

 太陽電池ではさらに状況は厳しい。太陽電池の実用化開発では40年以上にわたって日本が世界を先導してきた。しかし市場が大きくなった2008年、あっという間に、その地位はドイツ、中国、米国企業に奪われてしまったのだ。

「すり合わせ」型企業の強みが生かせない

 半導体のプロセス技術だけでなく、設計の汎用化も進んだ。様々な製品に適用可能な汎用的なチップセットを供給する企業が台頭し、製品の個別化部分の多くをソフトウエアが担うようになった。そうしたいわゆる「標準ソリューション」を活用した製品の性能が飛躍的に増大したのが近年の特徴である。

1
nextpage

このエントリーをはてなブックマークに追加

特集 航海時代



facebook Comments

関連キーワード検索


underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング

当社は、2010年1月に日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)より、個人情報について適切な取り扱いがおこなわれている企業に与えられる「プライバシーマーク」を取得いたしました。

プライバシーマーク