グローバル社員の育成策

 座席の上の振動計につないだパソコン画面に見入っているのは、小玉啓成さんだ。日本では秋田支社で保線を担当している。入社は1998年。

 英語は苦手ということもあり、これまで海外業務にはあまり興味がなかったという小玉さんだが、自分の今の仕事が海外でも役に立つなら、と関心を持ち、「自分が先駆けとなることで、後輩たちも後に続いてくれたら」との思いで手を挙げた。

 また、列車の最後尾にしゃがみ込み、壁に手を掛けバランスを取りながら床にガムテープで固定した振動計をのぞき込んでいるのは、濱尾謙治さんだ。保線の技術者だ
った父の背中を追い、同じ道を選んだという。

 入社は2005年。ちょうど同社が海外展開に力を入れ始めた頃だったことから、いつしか「自分も将来は海外で活躍したい」と志すようになり、仙台支社から名乗りを上げた。

 2人ともこちらでは前出の日本人専門家たちと保線現場に毎朝通い、ミャンマー人技術者たちと汗を流しているだけあって、どちらも真っ黒に日焼けしたくましい。日頃の作業の成果を見逃すまいと振動計に目を凝らす彼らの表情は、真剣そのもの。

 列車が作業済みの区間に入り、それまでの揺れや振動、けたたましく響いていた金属音がウソのように消えて振動計の波動の山がすうっと平らになった瞬間、2人は「おぉっ」と歓声を上げ、会心の笑みを浮かべた。

 この制度は、海外で鉄道コンサルティング業務の中核を担う人材を育成しようとJR東日本が2009年に始めたもの。

 2011年11月に同社がJR西日本や東京メトロなどと共に日本コンサルタンツ(JIC)を設立してからは、OJTもJICが出資企業各社から受け入れる形で実施している。社員の目を海外に向けさせることで、将来、海外の鉄道事業に臆することなく飛び込んでいける人材を育成することが狙いだ。

 現場を率いるJIC技術本部の小松博史部長は、「OJTに参加した社員は、将来、日本国内だけでなく、海外の業務にも関わることが期待されている」と話す。

列車がヤンゴン駅を発車する直前、専門家から測定の流れについて説明を受けるOJT生たち
動揺測定器を床に固定する濱尾さん