実際、現在、小松部長と共にJIC職員としてこの保線協力を進めている松尾伸之課長は、かつてJR東日本のOJTとしてベトナムに9カ月間派遣されたことがある。以来、JICがミャンマーで手掛けるさまざまな事業に継続的に携わっている。

 OJTと聞くと、入社間もない若手のための新人研修をイメージする人もいるかもしれないが、実は、応募資格があるのは入社後7年以上実務経験のある社員だけ。

 「日本の鉄道のことを知ってからでないと、外に出ても、“どうしたらより良くなるか”“自分はここで何をすべきか”と自分で考えられない」(小松さん)ためだ。グローバル社員の育成に向けた強い信念が伝わってくる。

受け継がれる技術

 しかし、この制度にはもう1つの姿がある。

 これまで、鉄道などの運輸事業や製造業において世界で圧倒的な存在感を誇ってきた日本。しかし、周知の通り、国内では、道路や鉄道などのインフラをこれから新規に建設する機会自体が減少傾向にある。

 その上、団塊世代が一斉に退職の時期を迎えたり、あるいは維持補修や管理業務の外注化が進められたことから、ベテラン層の高度な技術やノウハウをいかに若手に伝えていくかが、日本社会の今後を左右する喫緊の課題となっている。

 まさにこれから技術を受け継ぐべき若き保線担当者の2人も、「自分が入社した当時はJRの中で定期点検や保線を手作業で行う機会があったが、最近は現場作業の外注が進み、われわれは管理業務が中心になったため、なかなか現場に行く機会がない」(小玉さん)、「JR本体としての技術力を低下させないためには、先輩方の技術力を若手社員が早く受け継がなければ」(濱尾さん)と危機意識を募らせていたからこそ、自らOJTに志願したのだという。

 つまりこの制度は、日本国内における技術の継承という意味においても、起死回生の一打なのである。

 「3カ月という期間は、さまざまな保線作業をすべて学ぶには時間的に足りないが、ここまで手つかずの状態の線路を修繕する機会は、今の日本にはまずない。その意味で、ここは保線技術を継承するために大変いい環境であり、ぜひこれからもOJT生が後に続いてほしい」(小玉さん)。

軌道整備前(上)と後(下)の列車動揺の測定例(日本鉄道施設協会誌 2014年2月号より転載)