国の“お財布”
ところで、こうした長期的な計画を立てる際は、当然のことながらむやみやたらに絵を描けばいいというものではない。この国の人口見通しや都市化のスピード、域内総生産の将来予測などを考慮に入れずして実現性のあるプロジェクトは提案できないからだ。そこで必要になるのが、「経済社会フレームワーク」だ。
例えば、新政権は「20年以内に現在のタイの経済レベルに追い付く」という目標を掲げる。その目標を達成するために必要な投資はいくらか。
国際通貨基金(IMF)によると、ミャンマーの2011年度の経済規模は約510億ドル(5兆1000億円)で、GDP成長率は5.5%。現在の東京都の予算(約6兆円)とほぼ同じ規模だ。
これをベースに人口増加率や経済成長率を鑑みながら州や地域へのGDPの配分を考慮し、必要な投資額を弾き出すというのが、その考え方である。
調査団を率いるオリエンタルコンサルタンツグローバル(旧社名:オリエンタルコンサルタンツ)の柴田純治総括がこのフレームワークを重視するのには理由がある。
この国の現状を、「成長への国民の大きな期待がある中、“投資が少なかったから成長力が伸びなかった”ということはあってはならないこと。そのため、過小投資のリスクが嫌われ、過剰投資に振れがちになるだろう」と見る同氏は、「だからこそ、この国が“借金漬け”にならないよう、この国全体の“お財布”をおおよそ出した上で、その中で運輸交通セクターにいくら割けるのか、そのうち幹線インフラの割合はいくらぐらいか、という規模感を共有し、適切な投資幅でものを考える必要がある」と考えているのだ。
その際、近年、目覚ましい成長を遂げたタイやベトナム、インドネシアなど周辺国の経験も参考になる。
とはいえ、例えば1964年の東京オリンピックにあわせて開業した東海道新幹線が来年2014年に50周年を迎えるように、いったん完成したインフラは数十年から100年近くにわたり使われるものだ。
逆に言うと、インフラ施設はそれだけ先の需要や経済規模を見越して計画を立てなければいけないものであり、それを今の経済規模だけから見るのは過小評価しかねないという点には、十分に留意する必要がある。
さらに、この国の場合、最後にセンサス(国勢調査)が行われたのは約30年前であり、フレームワークに必要な人口データ自体、必ずしも現状に見合ったものではない可能性があるという問題もある。
「通常の途上国であれば、少なくとも人口についてはおおむねコンセンサスが取れた数字が存在するが、この国の場合、この点から確認しなければいけない」と、経済社会フレームワークを担当する国際開発センター(IDCJ)の榊原洋司氏は話す。だからこそ、難しい。