所有せず運営受託に軸足を移す世界的なホテル企業
ヒルトン・グループがこうした決断を下せるのは、同社の経営がもはやホテルを自ら所有するという旧来の形態から完全に脱却しているからである。
ヒルトンに限らず、スターウッドやマリオットなど、世界的なホテル企業は、自社所有ではなく運営受託に完全に軸足を移している。これによって、全世界的にチェーンの規模が拡大しており、ヒルトン・グループはすでに約7000のホテルを運営している。同社グループにおける自社保有のホテルは全体のわずか数%しかない。
グループ全体からすれば、旗艦ホテルであるウォルドルフで何とか収益を上げなければならないという制約はなく、むしろ中国の投資家に、歴史的建造物として高値で売却できるのであれば、それがもっとも経済合理性の高い決断ということになる。
歴史にイフは禁物だが、1980年代から90年代にかけて日本経済が持っていたポテンシャルの高さを考えれば、アジアの全都市にオークラをはじめとする日本の高級ホテルが並んでいてもまったく不思議ではない。こうしたグローバル展開に成功していれば、オークラ東京は、ウォルドルフと同様、歴史的建造物として高い収益を生み出したかもしれないことを考えると非常に残念だ。
似たような動きは英国でも見られる。現在、ロンドン中心部ではバタシー石炭火力発電所の再開発が進んでいる。同発電所は、1929年に着工された歴史的建造物で1983年にその役割を終え閉鎖された。英国では産業建造物も保存規制の対象となっていることに加え、保存を求める声が多かったことから、そのまま手つかずの状態で残されていた。このほど、マレーシアの政府系ファンドからの資金提供を得て、高級マンションとして再生させることが決定した。タービン建屋やレンガの外壁など、発電所としての状態をできるだけ維持するための工夫がなされているという。これもトップクラスの不動産市場として世界各国から資金を集める英国ならではの芸当だろう。