チューリッヒ近郊に、創業34年目を迎えた手作り豆腐の店がある。豆腐屋エンゲル(Engel)だ。エンゲルは天使の意味。
スイスは豆腐が普及していてスーパーでも買える。最近、近所の中堅スーパーで同店の木綿豆腐を見た。青空に雲が浮かび、天使が笑うパッケージで「あれ、見たことがない。新しい豆腐屋だ」と思ったが違った。この豆腐屋がそんなに前からあったのだと、初めて知った。
経営者はスイス人。始まりは、アメリカで豆腐を初めて食べたハンスルエディ・オップリゲール(Hansruedi Oppliger)氏、日本の豆腐のことを知っていた栄養士のフェレナ・クリーゲール(Verena Krieger)さんたち、若いスイス人5人が集まったことだった。
5人は「地域の人たちに、地元産の有機大豆を使った新鮮な手作り豆腐を毎日届けたい」という理想を掲げて試作を重ね、満足のいく豆腐を作り上げた。そして天使をロゴにして創業。その後、それぞれ事情があって全員が豆腐作りから離れたが、「手作り」の精神は変わらず引き継がれた。
豆腐屋エンゲルの製造の様子を見せてもらい、現経営者たちに話を聞いた。
良質な材料と手作りにこだわるエンゲル
スイスはここ数年、にわかに豆腐の消費が増えている。以前からベジタリアン向けに売られてきた木綿豆腐や味付き豆腐(豆腐ハンバーグなど)を、肉好きな人たちも食べ始めたからだ。
「肉は控えめに食べよう」「豆腐は健康」「豆腐はおいしい」という認識が広まっている。報道では、需要の急増でチーズ作りから豆腐作りに切り替えた企業まであるという。
全国展開の最大手スーパー2社も豆腐の販売に力を入れている。豆腐売り場の前で、木綿や絹ごしに加え、豆腐ゴマスティック(白ゴマをまぶした豆腐)、野菜入り豆腐(人参、グリンピースなどを混ぜた豆腐)、カレー風味などの味付き、おからボールなど、様々な商品を吟味する買い物客を頻繁に見る。
そんな光景に、豆腐を買う人たちは本当に多いのだと実感する。大手スーパーは独自の豆腐生産ルートを持つ。