アメリカ軍のISIL攻撃を統括しているアメリカ中央軍司令部によると、2月4日までの空爆で破壊あるいは損害を与えたISILの攻撃目標は4817カ所(または輌)であり、その内訳は下記の通り。
・戦車、装甲車、トラックなどの車輌:1240
・重火器類、車載型簡易爆弾など:198
・部隊集結地、検問所、掩蓋陣地など 1423
・武器集積所:33
・通信施設をはじめとする諸設備:144
・トレーニングキャンプ:21
・司令部、戦闘用、補給活動用建造物:899
・その他の建造物:621
・ボート:39
・石油関連施設:130
・ISILがコントロールする橋・道路:69
確かに2月上旬までで5000近くもの目標を攻撃し、ISILの勢力拡大をスローダウンさせてはいる。だが、その内容を軍事的に解釈すると「1日あたり平均840万ドルもかけて実施している空爆作戦としてはコストパフォーマンスが低すぎる」という声が専門家や政治家の間からあがっている。
要するに専門家たちはこう指摘しているのである。
「航空戦力による本格的な空爆作戦の目的は、敵の戦略要地を破壊して戦争継続能力に痛撃を与えることにある。だが半年近くに及ぶ空爆で破壊したISILの戦略要地は石油関連施設が130カ所、橋や道路が69カ所と全体のわずか4%にすぎない。攻撃の6割以上が各種車輌や前進拠点それにISIL部隊などに対するものであって、味方地上戦闘部隊に対する支援攻撃を実施しているような結果しか得られていない」
その「味方地上戦闘部隊」とは、現在のところアメリカ軍をはじめとする有志連合国軍の地上部隊ではなく、以前よりISILとの地上戦を展開しているイラク政府軍部隊、クルド人部隊、シリア反アサド政権勢力の部隊である。そして、イラク政府軍はそれなりの武器弾薬は保有しているものの極めて士気が低く、クルド人部隊は士気旺盛であるものの武器弾薬は欠乏しており、もともと烏合の衆であるシリア反アサド政権勢力には武器弾薬と士気の両者が欠落している、といった状況である。
「このようになんとも心もとない状態の味方地上戦闘部隊に対してこれまでのように空爆による支援を実施しても、ISILに決定的な打撃を与え続けることは不可能であると判断せざるを得ない。言葉は悪いが“まとも”な地上部隊を投入しなければ、有志連合軍による空爆は“ドブにカネを捨てる”結果になりかねない」