森と牛と人の循環「森林ノ牧場」

「森林ノ牛乳」が生まれるところで牛に舐められる

2010.08.30(Mon)前田せいめい

 牧場予定地に牛たちがやって来たのは2008年11月。ひと足さきにオープンしていた「森林ノ牧場 丹後」から移される牛をはじめ牝15頭、牡1頭の16頭が、本格的な冬を迎える那須の森林に放された。

 当初の森林は人の手が入ることのないまま長く放置され、潅木や篠笹に覆われて人が入ることを拒むような、典型的な忘れられた里山だったという。

 冬のあいだ牛たちは笹や下草を食べ、糞をし地面を踏み均し、夜もそのまま雪の降る中で眠り、そして翌年春の間伐開始時には森林の様相はすっかり変わっていた。

森林ノ牧場 那須・森林の変遷1/前田せいめい撮影 森林ノ牧場 那須・森林の変遷2/前田せいめい撮影 森林ノ牧場 那須・森林の変遷3/前田せいめい撮影 森林ノ牧場 那須・森林の変遷4/前田せいめい撮影 森林ノ牧場 那須・森林の変遷5/前田せいめい撮影 森林ノ牧場 那須・森林の変遷6/前田せいめい撮影上から
(A)放置林/(B)未間伐/(C)5割間伐/(D)7割間伐/(E)全伐/(F)萌芽更新の見られる若い切り株

 現在の牧場からそれ以前の姿を想像することは難しいが、周辺に残る放置林と見比べると、放牧によって森林がどのように変化したかが分かるだろう。

 さらに牧場内でも試験的に未間伐(B)、5割間伐(C)、7割間伐(D)および全伐(E)のエリアが残されているので、それらの写真を並べてみる。

 放置林(A)は樹木のほかに潅木が生い茂り、日の差さない地面は雑草やシダ類、枯葉に覆われて無用心に足を踏み入れることが躊躇される。地面は常に湿気が高いとみえて、倒木にはキノコがびっしり生えていた。

 (B)は放置林と同様に未間伐だが、下草や絡み合う潅木の葉、細枝を牛たちがきれいに食べてしまったため、それらに遮られることなく木漏れ日が地面に届いている。倒木も残されていたが、その表面は乾いていた。

 間伐をしたエリア(C)(D)(E)では、若い切り株が萌芽に覆われて切り口も見えないほどになっていた(F)。

 一方で「伐り遅れ」のため活発な萌芽更新が見られない切り株も多くあり、さらには伐採されず残っている木も40年以上を経過したものが多く、これらは「年を取りすぎ」て吸収したCO2を樹木内部に蓄積する炭素固定能力が落ちているためCO2の吸収と放出はほぼ相殺されてしまうだろうという。

 長く放置されている間に、間伐だけでは再生しにくく、地球環境保全の面でもあまり有効とは言えない森林になってしまっている。「人の手を加えないことが環境にいい」のではないのである。

 放置林も現在の状態が続けば、やがては極相林が形成されるのかもしれない。しかしそれには長い時間が必要であり、最終的に人が資源として活用できない森となる。

 それはそれでひとつの自然保護のあり方だろうが、里山という人の生活圏に近接した環境とその有効利用を考えるのであれば、むしろ適切な管理によって更新を活発化することで、CO2吸収能力を高められるし同時に資源としての持続性を維持することが可能となる。

 逆に管理を怠れば、それは例えば「原木栽培のシイタケが食べられなくなる」という形で人の生活に影響がおよぶ。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る