森と牛と人の循環「森林ノ牧場」

「森林ノ牛乳」が生まれるところで牛に舐められる

2010.08.30(Mon)前田せいめい
森林ノ牧場 那須/前田せいめい撮影 森林ノ牧場 那須/前田せいめい撮影同じ谷あいの12月(上)と8月。草の育成のため8月は牛は別の場所に放されていた

 森林ノ牧場では牛たちは極力自然の中に置かれる。口蹄疫に関しては問題発生以来、周到な防疫措置が取られ今後も継続されるが、平時は必要以上に神経質になって過剰に与薬したり抗生物質などを配合した飼料を与えるといったことは避けている。妊娠出産も自然交配、自然分娩である。

 そうした中で生き物を相手にしていれば自ずと、「生」だけではなく「死」にも直面することになる。櫛田さん自身、そうした場面に立ち会ってきた。

 「そういうのを見ると、自分のやってる事業って何なのかな、と問いかけられるような思いがあって。命にかかわる仕事であるとか自然の恵みをもらう仕事であるとか、生きたものを相手にしてるんだな、それを恵みとしていただいてるんだな、ということを強く思いますね」

 「自然界から教えられることって、いっぱいありますよ。問いかけられている気がします。お前は何だ、何のためにここにいるんだ、どういう役割なんだ、お前の意味は何なんだ、そういうことを日々言われているような感じがします」

 ここに来れば牛に触れることができるし、気が向けば顔も舐めてくれるだろうが、いわゆる「観光牧場」を期待するとがっかりすることになる。搾乳体験のようなイベントがあるでなし、牛と人との間に柵がないというだけのことである。

森林ノ牧場 那須/前田せいめい撮影のんびりと草を食む夏の群れ

 ここは娯楽施設ではないし、人を楽しませるために牛はここにいるわけではない。

 ここでの牛の役割は「森林を持続可能な資源として再生すること」。森林ノ牛乳をはじめとする乳製品の製造販売もそれ自体が目的なのではなく、それは森林再生のサイクルの中の一過程、あるいは具体的な形を持った1つの相と言えるかもしれない。

 森林ノ牛乳はデパートの牛乳売り場ですぐに売り切れてしまうほどの人気商品である。もちろん森林酪農もビジネスである以上それは重要なことではあるが、櫛田さんの思いはそれとは違うところにもある。

森林ノ牧場 那須/前田せいめい撮影

 森林ノ牛乳が熊野会長の言う「豊かな時間」「豊かな暮らし」の中に位置づけられること。飲んだ人が森林ノ牛乳のファンになって森林酪農に目を向けてくれるようになること。

 牛乳をきっかけに森林ノ牧場に興味を持ってもらい、実際に訪れて牛に触れ、牧場や森林を見て、においを嗅ぎ耳を澄ませ、それらを通じて「人と自然」「人と人」との関係性に新たに気づいてほしいと思っている。

 「いろんなものは『個』としてだけでは存在し得ないですよね。いろんな関係性を持って初めて『個』として存在できるので、人間もその関係性の中で生かされているのだということに気づいてほしいし」

 「そうなると、未来はどうなるんだ、どうしていったらいいんだということも、自分たち自身がどうすべきかということに気づくことができるんだと思うんですよね」

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