西岡力(にしおか ・つとむ)氏 東京基督教大学教授。北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)会長。1956年東京生まれ。国際基督教大卒、筑波大学大学院修士課程修了、駐ソウル日本大使館専門調査員、現代コリア研究所主任研究員を歴任。著書に『韓国分裂――親北左派vs韓米日同盟派の戦い』(扶桑社)、『よくわかる慰安婦問題』(草思社文庫)など。

 朝日新聞が「日本軍による慰安婦の強制連行」という記事は誤りだったと認めたものの、韓国政府は依然として慰安婦問題での謝罪要求を続けている。欧米や国連でも「日本政府(日本軍)は多数の朝鮮人女性の尊厳を傷つけた」という歴史認識が広まったままだ。

 戦前は欧米を含め世界で公娼制度が存在し、日本だけの問題ではなかった。だが、今や「日本だけが多数の女性をセックススレイブ(性的奴隷)にしたとする誤解」が定着、「ナチスが同時期にやっていた大量虐殺に匹敵するひどい行為をやっていた」というとんでもない見方まで普及しつつある。

 慰安婦問題に詳しい西岡力・東京基督教大学教授は「今、日本は慰安婦問題の汚名をそそぐ最後の時。今後10年かける気持ちで粘り強く世界に歴史の真実を伝える努力をしなければならない」と危機感を表す。

 誤った史実が広がったのは外務省が積極的に反論してこなかったから。西岡氏は「外務省がこれまでのような消極的な態度を続けるなら、同省の外に『慰安婦問題対策本部』を新設して、実行していく必要がある」と強調する。

 日本は「謝れば済む」と安易に謝罪して、じりじりと不利な立場に後退する愚策を繰り返してきた。日本の常識は世界の非常識。西岡氏に「言うべきことは言い、世界に真実を発信する」情報戦略を聞いた。

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井本 朝日新聞は「日本軍による慰安婦の強制連行はなかった」と過去の記事を訂正しながら、「女性の尊厳を傷つけたのは確か。世界もこれを問題にしている」と問題点をすり替え、居直っている感があります。だが、外務省も謝罪一辺倒で、誤解を解く努力をしていない印象があります。これをどう思いますか。

自分たちが反論しなかったことが招いた今日の負け戦

西岡 そう、慰安婦問題については現役の外務官僚のみならず、外務省OBも反米派、親米派にかかわらず「『慰安婦の存在そのものが女性の尊厳を傷つけた。この問題に時効はない』というのが、現在の国際社会の倫理感。だから、強制連行がなかったことを強調しても意味はない」という消極的な姿勢でほぼ一致しています。

 この姿勢が根本的に間違っているのは、自分たちが反論しなかったことが今日の負け戦を招いたのだという深刻な反省がないことです。

 過去20年間、外務省を中心に日本政府が言うべきことを言ってこなかったために、韓国側の主張が正しいという認識が米国など世界に広まってしまった。アメリカはフェアな社会で、反論すれば聞いてくれる。なのに、それをしてこなかったツケが今、日本人に襲いかかっているのです。

 今は最後のチャンスです。今反論しなかったら、日本だけが違法な人権蹂躙行為をやっていた、という歴史認識が国際社会に定着してしまう。ナチスが同時期にやっていた大量虐殺と匹敵するひどい行為を日本はやっていたという誤った認識が世界に蔓延し、後世の日本人はいわれなき汚名を着せられることになる。そうした危機感が外務官僚には希薄で、言い訳ばかりしている。