前回の論考「アジアの地政学を一変させるロシアのINF条約違反 米国も中距離ミサイル配備で中国に対抗か?」に引き続き、今回も東アジアの安全保障に係る中国のミサイルの問題を取り上げたい。
8月7日、中国は2014年1月に続く2度目の「超音速ミサイル」実験を行ったとされている。実験は失敗に終わったとのことだが、米国に続き、中国が超音速ミサイル開発を進展させていることは、日本にとっても安全保障上、無視できない話である。
しかし、日本ではまだこの超音速ミサイルの戦略的意義についての認識が十分ではないように思う。
超音速ミサイルは、既存の弾道ミサイルとも巡航ミサイルとも異なる、全く新しい戦略的意義を持つミサイルである。それは有事における米国の地域への戦力投射を阻む、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力のカギとなり得るミサイルの1つなのである。
そこで、今回は中国が超音速ミサイルを保有する戦略的意義について言及してみたい。
世界が衝撃を受けた1度目の実験「成功」
8月19日、米国ウェブサイトの「ワシントン・フリー・ビーコン」に、中国が2度目の超音速ミサイルの発射実験を行ったとするビル・ガーツ(Bill Gertz)記者の記事が掲載された。続く22日付の香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」によると、ミサイルは8月7日に山西省の太源衛星発射センターから打ち上げられたが、打ち上げ直後に空中分解を起こし、実験は失敗したという。
中国がこの種の超音速ミサイルを実験するのはこれが2度目である。1度目は2014年1月9日に行われている。この際、中国がマッハ10という超音速で飛行するミサイルを開発していること、米国防総省がそれに「Wu-14」というコードネームをつけていることなどが報じられた。
この際、中国がこの実験に「成功」したと報じられたことから、世界中に衝撃が走った。なぜならば、この「超音速滑空体(HGV: Hypersonic Glide Vehicle)」技術(以下、超音速ミサイルをHGVと記す)は、米国ですら満足に実験に成功していないものだからである。