この8月になって、南シナ海でまた大きな波が立ちつつある。今度は中国とフィリピンとの間で海上での「熱戦」が改めて起きるかもしれない兆候がいくつも出ている。つい7月半ばに中国は移動式の大型掘削装置をようやくパラセル諸島近くから撤去させ、ベトナムの強硬な反発を沈静化させたというのに。

 より正確に言うならば、中国は11月のAPECを前に周辺国との関係の再構築を模索し、中でも、ベトナムとの間でも一定の関係改善を図りつつある中で、世論が最も硬化した、最も弱い敵、すなわちフィリピンに焦点を定めているかのようだ。

 なぜなら、この数カ月のいくつかの報道と写真を的確に結びつければ、中国の外交上の動きとはいささか異なる、1つの真実が浮かび上がるからだ。

 本稿では、フィリピンの近海の島々でまた何が起きつつあるのか、最近、中国人民解放軍が積極的な活用を試みている「海上民兵」が意味するもの、そして、こうした動きが、東アジアの国際秩序にとっていかなる意味を有するのか、南シナ海の謎解きにお付き合い願うこととしたい。

既成事実を積み重ねる中国

 フィリピンによって1枚の新しい航空写真が公開された。この写真の意味を読み解くことが、最初の謎解きである。

 この8月28日に、改めてフィリピン国防省はフィリピンのプレスに対して、中国が着々と進めつつある、7月下旬に撮影された「ジョンソン南礁」の航空写真を公開した。その写真を見れば、南シナ海でこの1年程の間に中国が行った既成事実化の跡が一目瞭然なのだ。

 今やジョンソン南礁は広大な土砂に覆われている。そのちょうど真ん中あたりには、緑のベルトが見える。それは、中国より持ち込まれたココナツと椰子の木と見られている。緑化作戦ということなのだろうか。コンクリートブロックの周りも緑化され、岩礁というよりは、ずいぶんと「島」らしくなりつつある。

 ジョンソン南礁の西側には大きなコンクリート製の岸壁ができている。北側には労働者が住むバラックが見える。3隻の船に備え付けられた巨大なクレーンが稼働している。重機やトラック、コンクリートミキサーなどの人工的な「島」の構築に欠かせない機材も空中から丸見えなのだ。