集団的自衛権の一部行使容認をめぐる国会やマスコミなどの議論では、自衛隊や隊員を慮る発言が多く聞かれた。曰く「自衛隊を戦地に送るのか」「隊員から死者が出る」などなど。

 しかし、どれほどの議員やマスコミ、ジャーナリストが、地位も名誉も与えられていない自衛隊の現実を知っているのだろうか。

 総理や大臣はともかく、副大臣以下、人事官(人事院)、検査官(会計検査院)、特命全権大・公使(多数)、高等裁判所長官(8人)、委員長(公正取引委員会及び原子力規制委員会)などが認証官である。しかし、統合幕僚長(もちろん陸海空自衛隊の各幕僚長も)は認証官ではない。

 佐藤栄作首相(当時)は内閣法制局長官を認証官に推薦したい旨を語った。しかし当時の高辻正己長官は、自衛官の最高位である統合幕僚会議議長(当時)を先にするように逆提案するも、いまだ実現していない。そもそも、自衛隊が憲法上の明示的存在でないことから、すべての問題が発生している。

名誉が自信と勇気を与える

 第1普通科連隊は旧陸軍の歩兵第1聯隊にちなみ「頭号連隊」、第1師団は「頭号師団」とも呼ばれる。頭号部隊は言うまでもなく、日本の首都の守りを第一の任務とする政経中枢部隊である。

 第1師団が所在する練馬駐屯地(東京都)の師団司令部建屋には日章旗が翩翻(へんぽん)とひるがえっている。

 建屋自体の外見はパッとしないが、正面玄関脇には歴代首相や外国大統領などから授与された感謝状などが展示されている。また建屋入り口横には頭号師団と篆刻(てんこく)した石が台座に鎮座している。

 自衛隊は創設以来、抑止力として機能し、戦争防止に役立ってきた。従って、訓練の成果はPKO(平和維持活動)などの国際平和協力活動や災害派遣、さらにはオリンピック支援や昭和天皇の大喪の礼など、国際的及び国家的な事案や行事などに生かされてきた。

 手元に某第1普通科連隊長の名刺がある。

 自衛隊は旧陸軍とは全く異なる基盤の上に築かれた。しかし、伝統を重視し、言葉では言い表せない重みのある首都防衛にあたる職責を担っている覚悟の表明でもあろうか、名刺の表書き右端からはみ出るように「第△代頭号聯隊長」と書かれている。

 その後が正式な名詞であるかのように、「陸上自衛隊 第一普通科連隊長 一等陸佐 ○○」とある。

 言うまでもなく「聯隊長」は旧陸軍の呼称である。しかも第△代は明治時代に聯隊が創設されて以来の通し番号である。

 名刺の裏面を見ると、初代 長谷川好道に始まって現在の某氏至るまでの聯隊長60余名が列記されている。長谷川は旧陸軍で参謀総長をやり朝鮮総督を歴任し、元帥・伯爵に列せられた人である。