6月に『「小さな神様」をつかまえろ!』(PHP研究所)という本を上梓した。JBpressの「日本の中小企業」コーナーに掲載した取材記事を抜粋して書籍化したものだ。
この本には、厳しい逆境の中で「小さな神様」、つまりチャンスに出合い、それを機に生まれ変わる会社が登場する。
山形県の鶴岡市立加茂水族館は、入場者減少と施設の老朽化で閉館寸前の状態だったが、水槽の中でたまたまクラゲの卵を見つけたことをきかっけに、クラゲの展示に特化していく(注:クラゲに出合ったとき、同館はまだ公立ではなく民間の施設だった)。その戦略は見事に成功。いまや世界一のクラゲ水族館として名を轟かせ、全国から多くの観光客が訪れてくる。
また、福島県の向山製作所は、本業の電子部品製造事業が先細る中で、まったく畑違いのお菓子事業にチャレンジする。織田金也社長が出張の際に、東京駅の構内や地下街に広がる一大スイーツ街を目の当たりにし、お菓子にビジネスの可能性を見出したのだ。オリジナルレシピで開発した生キャラメルは、パリで開かれる世界有数のお菓子の祭典「サロン・デュ・ショコラ」で大きな反響を呼ぶ。現在はプリンやドーナツの製造、カフェの運営なども手を広げ、お菓子事業は着々と成長を遂げている。
そうした会社の経営は、一見すると「行き当たりばったり」に映る。中小企業が行き当たりばったりになりがちなのは、やむをえない事情もある。中小企業の経営は、どうしても外部環境に左右されやすい。市場や取引先の変化に大きな影響を受ける。予期せぬことが次から次へと起こり、対応に追われる。そのため会社として長期的なビジョンを描きにくい。
だが、その代わり、中小企業には小回りがきくという利点がある。社長がひとたび決定すれば迅速に新しい取り組みに着手できるし、方向転換も容易だ。「これはダメそうだ」と分かったらすぐに撤退もできる。