TTIPとは関係なく、EUではすでに長い間、デュポン社とダウ・ケミカル社が開発した「1507」という種類のトウモロコシの栽培をEUで許可するかどうかが議論されている。しかも、最新のニュースでは、許可は間近と言われている。
「1507」はある害虫に対する耐性を持つという。許可された場合、ドイツ人はそれが環境に与える影響を心配する。他の虫や蝶、そして、自然体系全体に変化が起きるのではないかというわけだ。
米国側は、いろいろな実験の結果、すでに安全が保証されていると太鼓判を押しているし、EUの農業製品の安全性を管理する部門も、それを認めている。ただ、ドイツ人はそう簡単には信用しない。
遺伝子組み換えトウモロコシを栽培する米バイオ企業大手モンサント社に対する抗議デモ(ドイツ北部ブラウンシュバイクにて)〔AFPBB News〕
米国ではすでに、トウモロコシ、大豆、サトウキビの90%に、遺伝子組み換えが使われているし、多くの加工食品は遺伝子組み換えの作物で生産されているが、その表示義務もない。
一方EUでは、数少ない例外を除いては、これまで遺伝子組み換えの作物は一切禁止されている。
以前、一度EUでも、米国のモンサント社のMON810という遺伝子トウモロコシの栽培が許可されたことがあったが、加盟国の多くが独自に禁止令を発効したため、実際にMON810はEUに根を下ろすことがなかった。農業国フランスも、遺伝子組み換えの植物には反対だ。
EUの不信感を後押しするように、米国ではすでに、除草剤が効かない突然変異の雑草が大繁殖するという事態も起こっている。
米科学誌サイエンス(Science)で昨年9月に発表された研究報告によれば、除草剤に対する耐性を持った遺伝子操作の種子が開発されたことが原因だと、多くの科学者が指摘しているらしい。
TTIPを大宣伝する米国の安全基準を信用しないドイツ人
つまり、ドイツ人の心配を杞憂と片づけるわけにはいかない。TTIPが締結されると、「1507」だけではなく、米国で許可されているあらゆる遺伝子操作の作物が流れ込んでしまう。だから、ドイツ人は大騒ぎをしているのだ。
先月、メルケル首相が訪米した時、オバマ大統領はTTIPの大宣伝をしたらしい。米国と交易のあるEUの国は、大きな利益を得ることになるだろうと。今まで掛かっていた関税が取り除かれれば、交易に弾みがつき、EUのGDPは0.5から1%伸びるとか、一家につき、年間500ユーロの増収になるとか、雇用が劇的に増えるとか。