前回の記事「世界最貧国がデジタル立国に挑戦」では、「バングラデシュのIT産業は緒に就いたばかり」という結論で締めくくった。
「バングラのデジタル立国なんて日本とは無縁の話」と考える読者も多いだろう。しかし実は現地にはマイクロソフト、グーグル、サムスン、アクセンチュアなど名だたるIT企業が進出している。
注目すべきはサムスンである。サムスンは2010年、バングラデシュの首都ダッカに研究開発センター「Samsung R&D Institute Bangladesh Ltd.」を設立した。
サムスンの動きは現地の人材市場にも大きな影響を及ぼしている。バングラデシュの優秀なIT人材をサムスンが根こそぎさらっていこうとしているのだ。その露骨な引き抜きの結果、バングラデシュ資本の中堅IT企業の中には経営危機に瀕しているところもある。
こうしたサムスンの動きを警戒する日本人IT専門家のA氏は、バングラデシュのIT大臣を直接訪ね、「このままではバングラデシュのIT産業は滅びてしまいます」と訴えた。ところが、「そうは言っても、サムスンはバングラデシュに投資をしてくれているからねえ・・・」と、大臣の反応は鈍い。A氏がふと視線を大臣のデスクに移すと、そこにはサムスンからのパーティー招待状があったという。
韓国の勢いに対し、日本はどうなのか。A氏は「バングラデシュでも日本は韓国に負けている」と肩を落とす。A氏は、日本企業がサムスンにやられっぱなしでいることはもちろん、日本人がバングラデシュ人の潜在能力に気付いていないことが歯がゆいのだという。
ダッカ大学コンピューターサイエンス科の驚異的な入試倍率
筆者は日本に本拠地を置くバングラデシュ資本の企業、BJIT(東京都中央区)を訪れた。取締役会長である林信宏氏は東京大学大学院で修士を修め、その後日本IBMで活躍した情報工学の専門家である。そんな林氏も「バングラデシュ人は非常に優秀」と太鼓判を押す。
「ダッカ大学のコンピューターサイエンス科の入試は倍率2000倍。この難関を潜り抜けた人材が優秀であることは言うまでもありません」