藤原義春社長(以下、敬称略) 中小企業は入社してきた人をどう育てるかが重要です。創業したときから自分なりにいろいろと社員教育をやってきました。でも、中小企業は社員をつなぎ留めるのがなかなか大変です。

 創業まもない頃、ある若者が入社しました。息子の同級生で小学生のときから知っている若者です。ところが彼は平気で遅刻するわ無断欠勤するわで、1週間に1~2日しかまともに働けない。おまけに仕事をするときは周りの社員に対してめちゃくちゃびくびくしている。

 それは家庭環境のせいなんですね。子供のときから親が意味もなく怒るんです。酔っ払って寝ていて、子供が目の前を通ると突然どつくとかね。だから彼は、大人というのはいつなんで怒るか分からんといつもびくびくしている。そういう不安定な精神でいるもんだから遅刻もする。

社員教育の取り組みについて語る藤原社長

 それでも私は怒らずに2年間使い続けました。とにかく励まして褒めて、ずっと我慢して使い続けた。2年目は、どんなに失敗してもええ、私が責任を持つからと言って責任のある仕事もやらせた。

 なぜ我慢をしたのかというと、彼には自分の生活を変えたいという思いがあったからです。だって、どんなに遅刻しても会社に来るときは必死で来るんですよ。ということは、遅刻したり無断欠勤する自分の生活を変えたいと思っているということです。その思いがあるなら変えることができると信じて使い続けました。そしたらね、2年目には全部直りました。遅刻も無断欠勤もせんようになった。

──それは素晴らしいですね。立派な戦力になった。

藤原 ところが、入社して7年目ぐらいのときに辞めてしまいました。親がしゃしゃり出てきたんですよ。お前はもうちゃんと働けるようになったんやから他の会社へ行け、藤原みたいな小さな会社にいたら退職金ももらわれへんぞ、おれが大きな会社探してきたからあんな会社もう辞めろと言って。それで彼はそっちに行ってしまったんです。

──せっかく育てたのに。それはがっかりですね。

会社が面倒を見てくれるのは当たり前?

藤原 もう1人、こういう社員もいました。彼は夜間の大学に通いながらうちに来て2年間アルバイトしてた。無口で本当にしゃべらない子やった。「就職活動したんやけど入れてくれるところが見つからへん」と言うから、「うちの社員になるか」と聞いたら「なる」と。