MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
医療事故への対応が何年にもわたり議論されてきた。医療現場で何が起こったか知りたいと思う遺族に対して、裁判では答えが出ないどころか双方に深い傷を残して終わることが多かった。そこで裁判ではない方法も含めあらゆる解決法が模索されてきた。
ところがいよいよ大詰めを迎えた最終案を見て驚愕した。いつの間にか多大な予算と人と時間を必要とする「火事場の焼け太り」のような制度が作られようとしていたのである。
しかも裁判を誘発するような時限爆弾も仕込まれていた。いったいこれは何のため、だれのための制度なのだろうか。
まず現在の日本での死の扱いを知ってほしい。日本は先進国でまれに見る死因不明社会である。
いま日本で人が亡くなると、亡くなった場所が医療機関だったら問題にならない。病院外でもかかりつけ医がいて予想された死の場合は、その死から24時間以上経っていても死亡診断書が作成される。それ以外の死はすべて検死の対象となる。
問題はこの先である。今の法律では検死の結果「外表に」(ここが肝心)異常がある場合は、異常死として24時間以内に警察に届けなければいけない(医師法21条)。
ということは体の表面に異常がない場合は、異常死として届け出るかどうかは検死した人の胸先三寸というお寒い状態にある。
体の表面に異常がなくても犯罪が絡んでいる死は容易に想像できるだろう。日本での総死亡に対する解剖率はたった2~3%である。いま日本は多死社会に突入し、今後毎年何十万人の人は病院や施設で死を迎えることができなくなることが予想されている。
従って、どこで亡くなろうが予期せぬ死を拾い上げ死因を究明することは大変重要なことである。これが死因究明の土台部分である。
ところがその部分については制度を整えることなく、診療に関する死に関してだけ「予期せぬ死を全例届けさせて」死因の究明と再発防止を法制化するという。これが今後国会で審議される予定の医療事故調査法制化案である。