2010年4月1日、第一生命保険が相互会社から株式会社に転換し、新たに時価総額1兆6000億円の上場生保が誕生した。久々しぶりの大型上場で話題をさらった第一生命だが、時価総額の世界ランキングでは30番目程度、資産規模でようやくトップ10に入るにすぎない。

 しかしながら実は、日本には国内展開だけで総資産の世界トップを誇るマンモス生保が存在する。「暗黙の政府保証」の下で肥大化を続けてきたと批判される、日本郵政グループの「かんぽ生命」である。

 2009年3月末のかんぽ生命の総資産は106兆円に達し、これは民間保険会社トップである日本生命保険(45兆円)の2倍以上。かんぽ生命を含めた生保業界の合計資産の1/3に相当する。また、生命保険加入者が年間に納める保険料合計34兆円のうち、約1/4をかんぽ生命が占めている。

 「官」が圧倒的な存在感を示し、「世界でも類を見ない奇怪なマーケット」と海外のエコノミストは指摘する。そして、この「マンモス」は政治に翻弄され続けてきた。

全国2万人の郵便局長が国民新党を・・・「官業拡大」に転向した民主党

安倍官房長官、まもなく総裁選立候補を正式表明か - 東京

「郵政選挙」で圧勝した小泉純一郎首相(参考写真)〔AFPBB News

 2005年10月に成立した郵政民営化法は、その夏に参院で一旦否決。小泉純一郎首相(当時)が衆院解散を断行し、郵政民営化を唯一の争点に仕立て上げて総選挙で大勝を収めた。圧倒的な国民支持を受け、法案成立に至ったのである。

 郵政民営化の意義は、「民でできることは民に任せる」に尽きる。すなわち、経済活性化を目指す行政改革の一環として、先細りが避けられない郵政事業を民営化して収益機会のフリーハンドを与える。同時に、官業ゆえに国債運用に偏重していた郵政資金の流れを効率化し、日本の金融市場の正常化を図ろうとしたわけだ。

 この郵政民営化法の施行に伴い、分社化された金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命)は2017年9月までに政府(日本郵政)によって株式が完全売却され、民間企業とのイコールフッティングが実現する「はず」であった。

亀井氏、閣僚辞任へ 「郵政先送り」で

民主党政権を「郵政」で振り回した亀井静香・国民新党代表(参考写真)〔AFPBB News

 ところが、2009年8月の衆院選挙で民主党が圧勝し、「55年体制」は崩壊して政権交代が実現。同党は郵政の「官業回帰」を掲げる国民新党を連立パートナーに選んだ。国民新党の有力な支持母体は、全国2万人の郵便局長で組織する全国郵便局長会(全特)。「集票マシーン」となる彼らの意向に沿い、「尻尾」の国民新党が巨大与党の民主党を振り回すとの報道がその頃から相次いだ。

 完全民営化に向けて準備を進めてきた「マンモス」の周囲で、時計の針が逆回転を始めたようだ。2010年4月、鳩山由紀夫内閣は民営化路線から後退し、民間保険業界にとっては俄かに信じ難い「官業拡大」を目的とする郵政改革法案を閣議決定した。

 しかしながら、「普天間」や「政治とカネ」の問題で鳩山首相が退陣。それを受けて6月8日発足した菅直人新内閣はタイトな国会日程を理由に、郵政改革法案の審議を参院選後に先送りした。これに抗議して亀井静香郵政改革・金融担当相が辞任するなど、法案がどうなるのか予断を許さない状況だ。