『里山資本主義──日本経済は「安心の原理」で動く』(角川書店)にはこうある。〈世の中の先端を走っていると自認してきた都会より、遅れていると信じ込まされてきた田舎の方が、今やむしろ先頭を走っている〉──。一体どういうことだろうか。

 本書は端的に言うと田舎暮らしを勧める本である。田舎暮らしの魅力を伝える本は今までにも数多くあった。だが、本書がそれらの本と一線を画しているのは、ただ単に自然の中で暮らすことの楽しさや素晴らしさを喧伝する内容ではないという点だ。

里山資本主義──日本経済は「安心の原理」で動く』(藻谷浩介、NHK広島取材班著、角川書店、781円、税別)

 本書は、日本が直面する社会や経済の問題と絡めて、田舎暮らしの意義と価値を語っている。今までの“田舎暮らし万歳”の本に比べると、捉え方がジャーナリスティックで巨視的である。

 本書はこう唱える。2008年のリーマン・ショックによって「マネー資本主義」の限界があぶり出された。マネー資本主義とは、もともとはアメリカで生まれた、お金でお金を生み出す経済システムのことだ。また、2011年3月の東日本大震災によって、私たちが当たり前に利用している食料やエネルギーの補給路が実は極めて脆弱であることが明らかになった。だからこそ、今、日本では新しい経済システム、社会システムの確立が求められている。本書はそのシステムが日本の田舎で勃興しているという。「過疎」地域とも言える中国地方の山間地で生まれ、立派に機能しているというのだ。

 そのシステムが「里山資本主義」である。定義すると、〈かつて人間が手を入れてきた休眠資産を再利用することで、原価0円からの経済再生、コミュニティー復活を果たす現象〉のことだ。

 山の枯れ枝や不要な木材を集めて燃料をつくる人、耕作放棄地で野菜を育てて近所の人たちと分け合う人、それらの野菜を調理してレストランで客に振る舞う人、空き家を活用してお年寄りのためのデイサービスセンターを運営する人・・・。本書は、そうやって地域の資源を活用して田舎で生き生きと暮らす人たちの姿を通して、私たち一人ひとりの意識と生活様式の変化が地域再生、ひいては日本再生につながることを解説している。

 「里山資本主義」という言葉をつくったのはNHK広島放送局である。2011年秋から同局は里山資本主義の中身と意義を掘り下げたドキュメンタリーシリーズを制作した。この番組が本書のベースとなっている。番組に毎回出演してナビゲーターの役を演じたのが、エコノミストの藻谷浩介氏だった。本書はNHK広島取材班と藻谷浩介氏の共著として出版された。

 番組プロデューサーを務めたNHK広島放送局 放送部 報道番組 チーフ・プロデューサーの井上恭介氏に、里山資本主義に着目した理由や、その意義を聞いた。