最近のバンコクで一番驚くのは、日本の飲食店が日増しに増えていることである。昔々のバンコクしか知らない人が訪れたら、日本の別の都市に来たのかと錯覚するかもしれない。味の管理もしっかりしていて、もはや海外にありがちな「日本食もどき」ではなく、本場の味が楽しめる。
人生の転機は予期せぬところから始まる
前回紹介したバンコク随一の日本人向けフリーペーパー、ArayZの創業オーナー高尾博紀さんがタイにやって来るきっかけも、実は飲食店がらみだった。
それは2008年に東京で裕福なタイ人に知り合ったことから始まる。バンコクで日本食レストランを経営したいので手伝ってくれないかと誘われたのだ。
「当時はタイにはほとんど興味はありませんでした。しかし、知り合ったタイ人が日本食は絶対に流行るからやりたいと、とにかく熱心に誘われたのです」
高尾さんは早稲田大学がインキュベーションセンターを設立したときの第1期生。学生時代から大企業で働くよりも自分で起業したいという気持ちが強かった。
そして大学を卒業した翌年2004年にはベルギービールを輸入販売する会社を興し同時に飲食店の経営にも乗り出している。
2008年はリーマンショックがあったものの、ベルギービールの店は順調に伸びていて店舗もも8つほどに拡大していた。デフレどこ吹く風で1本1000円もするビールがよく売れた。
「市場は常に変化しています。デフレだから価格勝負というだけじゃないから面白いですよね。そんな時期だったので、海外には興味が湧かなかったのですが、どうしてもと誘われたのでつい首を縦に振ることになってしまって・・・」
人生の転機とはこういうものなのかもしれない。全く予期しないところから新しい道が開けてくる。
2009年、タクシン派と反タクシン派が激しく衝突、一時空港も占拠されるような紛争が繰り広げられていたタイのバンコクへ高尾さんは足を踏み入れることになった。