今年に入ってから、スウェーデンの路上では、物乞いをする人の数が急激に増えたということは何回か書いた。そしてその大多数はルーマニアとブルガリアから来ている。
「人身売買」についても先日触れたが、路上に立って売春することを強制されている女性たちも、その女性たちを脅迫して売春を強要し、莫大な利益を上げている暴力手配師らも、スウェーデン内で発見され検挙されているのは、ほとんどがその2国からだ。
両国は2007年に欧州連合(EU)に加盟したが、加盟国の中では依然として最貧国である。以下は欧州統計局(ユーロスタット)が4月に発行した統計だが、貧困者の割合が高いとされている国は、ざっと見たところかつての旧ソ連内の国や東欧諸国が多い。
近年の金融・経済危機により、この東欧ブロックに加えてスペイン、ギリシャ、イタリアなど南欧諸国も貧国となった。
正確を期するために書くと、ここで言う東欧ブロックは、旧ソ連国(エストニア、リトアニアなどのバルト諸国や、ウクライナ、モルドバなど)および中東欧の衛星国(ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、チェコスロバキア、ポーランド)などの東側諸国である。
冷戦終結で世界は平和になったのではなかったのか?
1990年代の中頃、ヨーテボリ大学で日本語を教えていたことがある。中級コースの期末試験として、「自分の国や生まれ育った地域について、日本語で発表してください」という課題を出した。
スウェーデン人の生徒も多かったが、北極圏ラップランド出身の生徒や、幼い頃韓国から「国際養子」としてもらわれてきたという生徒などもおり、それぞれが印象深い話をしてくれた。作文にして提出もさせればよかったのだが、そうはせず口答試験だけだったので、書かれたものが何も残っていないのが今思えばとても残念だ。
特に印象に残っているのは、エストニアだったと思うのだが、旧ソ連から独立した共和国から来た生徒の話だ。
「街に戦車が侵攻してきた。カーテンを閉め切った部屋で、家族みんなで固まって泣いた。その後、仕事がなくなり、生活ができなくなったので、国を出ることになった。とてもとても悲しかった」という話だった。
日本から来たばかりの私にとっては、印象深いと言うよりは、ほとんどショックだった。
壁が崩れて東西ドイツが統一した時は、世界中が狂喜乱舞のお祭り騒ぎだったではないか。ソ連が崩壊し、冷戦が終結し、したがって戦争はなくなり、世界は平和になったのではなかったのか。何で戦車が市街に侵攻するのだ。
これも以前に書いたが、その後スウェーデンで大問題となり、次々と明るみに出てきたのは、東欧圏から少女や女性たちがだまされて西側へ連れてこられ、売春を強要されているという事実だ。正確には、「連れてこられる」のではなく「売られてくる」のだ。