「激辛」世界一を目指さないのにはワケがある

唐辛子から見る日本ピリカラ論(後篇)

2013.08.02(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 辛い食材の代表格「唐辛子(トウガラシ)」をテーマに、前後篇で日本における歴史と現代における科学研究を追っている。

 前篇では、日本人と唐辛子のつきあい方を、伝来から現在に至るまで見てきた。遅くとも16世紀以降、唐辛子は日本人に食べられ続けてきた。日本の“慎ましやかな辛さ”への要求をそこに感じ取ることができる。

 そしていま日本人は、食の多様化とともに、様々な形で唐辛子を受け入れることになった。伝統性と多様性が相まみえる中で、唐辛子に科学的な視点も向けられ、新たな唐辛子の生かし方の研究も進んでいる。

 そこで後篇では、唐辛子を研究のメインテーマの1つにしている信州大学大学院農学研究科の松島憲一准教授に唐辛子研究の現状を尋ねた。

 科学、文化、産学連携と、様々な視点から唐辛子研究を進める松島氏に、唐辛子の辛さの秘密、日本における唐辛子栽培の発展性、そして日本人と唐辛子と未来を語ってもらう。

ネズミでなく、鳥に食べられたい

 なぜ唐辛子に辛さがあるのか。この根源的な問いに対して、様々な視点から説明をつけることができる。

 まず、化学的な視点だ。19世紀、すでに西欧の研究者が唐辛子の辛さの正体を突きとめていた。その物質はいま「カプサイシン」と呼ばれている。

 その後、唐辛子には、カプサイシンとつくりの似た「ディヒドロカプサイシン」や「ノルディヒドロカプサイシン」といった物質も含まれていることが分かった。これらを含めた類似物質は「カプサイシノイド」という総称で呼ばれている。「唐辛子を食べたときの辛みに大きく影響するのはこの3つです」と、松島氏は説く。

 生理学的な視点からも辛さの感じ方が解明されている。われわれの体の表面にあるバニロイド受容体という場所に、カプサイシンなどの辛み成分がはまることで、脳に辛さが伝わる。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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