パリでスリ被害に遭った。

 エッフェル塔にほど近いメトロのエコール・ミリテール駅でのことだ。

 僕と友人は地下鉄車両から降りて、地上出口へと流れる人波と同じ方向に歩いていた。

 改札の出口はニューヨークの地下鉄駅でも見られるように、バーが回転して1回転で1人ずつしか出られないような形になっているので、どうしてもそこで人の流れが滞る。

 押し合いへし合いの中、友人を先に行かせ、今度は僕が出ようとした時、後ろから誰かに押された。同時に、たすきがけにしてあるバッグが「パン!」と横に払われたような気がした。

 しかし、いずれも人の多いところでは普通にあることだと思って、ほとんど無意識にバッグの位置を直してそのまま改札を出た。

 地上に上がる階段を上り始めると、なぜだか後ろからのプレッシャーはまだ続いた。

 近すぎてなんだか嫌な距離感だなと感じつつもそのまま階段を上っていると、隣にいた友人が僕の腕とバッグのストラップを同時に掴んで引き寄せた。後ろからのプレッシャーに対して僕の違和感が沸点に達したのとほぼ同時だった。

 僕と友人が後ろを睨みつけると、中年の男女混合の3人組がさーっとそれぞれの方向に離散していった。

 はっとしてバッグを引き寄せて調べた。なんと、バッグのジッパーというジッパーが全部開けられていた。

 そこでさっきまでの後ろからのプレッシャーに合点がいった。混み合ってしょうがなく接触してしまっていると思わせておいて、軽くぶつかる度に少しずつジッパーを開けていたのだ!

 よくよく調べてみた結果、幸いなことに、盗られたものは何もなかった。ジッパーを開けたらすぐのところにどかっと入れておいた僕の愛用カメラ RICOH GR4 が無事だったことが何よりだった。

 パリではスリに気をつけろと何度も言われた。同じように、もしくはそれ以上に気をつけるように言われるローマでは、学生時代の旅行・留学を通して一度もスリ被害に遭ったことはなかったし、警戒心はゼロだった。油断していた。