2013年7月16日午前9時。ソウル中央地検の特別捜査チーム90人近くがソウル市内の全斗煥(チョン・ドファン)元大統領の自宅や長男が経営する会社などになだれ込んだ。不正蓄財で有罪となったにもかかわらず巨額の追徴金を支払っていなかった事件で、検察の本格捜査が始まったのだ。

 全斗煥元大統領の追徴金問題と聞くと、「いつの話だ?」と思うことだろう。その通りで、大統領在任期間中などに不正に蓄財していたとして1997年に追徴金2205億ウォン(現在は1円=11ウォン)を科す大法院(最高裁に相当)判決が出ていた。

「29万ウォン」発言の禍根、時効を延長してまで徹底追及

 これまでに「かき集めたカネ」に加えて、自宅などが競売にかけられ、合わせて4分の1相当の533億ウォンを支払ったが、依然として巨額の未払いが残っていた。

 2003年には隠し財産があると見た検察が「財産明示申請」を出し、全斗煥元大統領が裁判所に呼ばれたことがある。この場で「財産の額」を問われ、「通帳にある29万1000ウォンだけだ」と答え、これが国民の怒りを買ってしまった。

 いくら不人気とはいえ、退任してから25年経過し、82歳になった元大統領に対して世論が今も厳しいのは、この「29万ウォン発言」が利いているとの見方は強い。

 実は、追徴金についても「時効」がある。最後に追徴金を納めてから3年間で、2013年10月にこの「時効」を迎えるはずだった。ところが、世論の厳しい反応を見て、国会が急遽時効を2020年まで延ばす法案を可決してしまった。

 今回の強制捜査は、「全斗煥法」と言われる、時効延長の法案が国会を通過してからわずか4日目のことだった。

 強制捜査をするのだから、もちろん、検察は今も巨額の「隠し財産」があると見ている。自宅や長男が経営する会社などから、骨董品や美術品などが続々と出てきた。検察はこれらのうち、どれが事実上全斗煥元大統領の財産なのかを調べ、厳しく徴収する方針だ。

 大法院の判決から16年経過したとはいえ、韓国ではホットなニュースとして大きな話題になった。「元独裁者」「隠し財産」「時効」・・・。話題にこと欠かず、格好の標的になってしまった。世論は圧倒的に強制捜査を支持しており、ネットには、「朴槿恵(パク・クネ)政権が発足してから最高の仕事だ」などとの書き込みが相次いだという。

礼節を重んじる国のはずが、大統領経験者はなぜか不遇

 「全斗煥元大統領宅強制捜査」が一斉に報じられた2013年7月17日の韓国紙の国際ニュース面に1枚の写真が掲載された。米国のバラク・オバマ大統領が、車椅子に乗るジョージ・ブッシュ(パパ)元大統領に寄り添って談笑する姿だ。

 ホワイトハウスで開いた社会奉仕活動の授賞式にブッシュ元大統領を招いたオバマ大統領は「ブッシュ元大統領のおかげで米国はさらに親切な国になった」と持ち上げたという。