「社会の公平性確保と税収増大のために地下経済にメスを入れる」――。韓国で朴槿恵(パク・クネ)政権発足とともに急浮上した「地下経済対策」。国税庁などが積極的に動き出すや、韓国で「現金決済」が急増し始めた。地下経済追及の手を逃れるためと見られ、政府と「隠れた資金」の攻防は序盤戦から熱くなっている(2013年2月28日付「韓国新政権、公約実現のカギ握る『地下経済』」参照)。
GDPの25~30%に達する地下経済、金持ちの税逃れに庶民の不満も
「地下経済の摘発」は、朴槿恵政権の重点政策の1つだ。各種統計によると、韓国の地下経済の規模は、国内総生産(GDP)の25~30%に達するという。日本など先進国の多くが10%以下であることと比較すると格段に高い数字だ。
経済の両極化が急速に進み、金持ちはさらに資産を増やし、庶民はさらに生活にあえぐ。にもかかわらず、巨額の資産が税金を逃れているとなれば、国民の政府に対する信頼問題に関わる。
朴槿恵政権は、高齢者年金の拡充や医療保険の充実など「高齢化社会」に合わせた福祉の拡充も掲げている。その財源として5年間の任期中に135兆ウォン(1円=11ウォン)が必要になる。経済成長率の低下で大幅な税収増加は期待できず、これまで取り損ねていた「地下経済」に挑もうという計算もある。
韓国政府は、地下経済をGDPの10~15%前後にまで引き下げることを当面の目標に置いた。これにより、5年間で28兆5000億ウォンの税収増加を図ろうという意欲的な計画も発表している。
こうした政府の方針に、国民の反応は好意的ではある。大企業や資産家による違法な「裏金作り」の摘発や、違法とは言えなくても「タックスヘイブン」を使った財テクなどが連日のようにメディアで報じられ、「不正な蓄財や悪質な脱税には厳しく対処すべきだ」とのもやもやした気分が庶民の間で広がっていることも確かだ。
ところが、こういう国民意識の一方で、「地下経済摘発」を逃れようという動きもはっきりと出始めてきた。
急拡大する「キャッシュエコノミー」の実態
韓国の有力シンクタンク、LG経済研究院は2013年7月24日付で「キャッシュエコノミーの増加 地価経済拡大の警告灯」というタイトルの研究報告書を発表した。
内容は実に興味深く示唆に富んでいる。
報告書によると、最近になって韓国では紙幣(貨幣)の発行量が急増し、クレジットカードや口座振り込みに代わって現金決済の比率が上昇している。同研究院はこれを「キャッシュエコノミー」と名付けている。
一方で、紙幣が発行増加のペースほど市場で回転せずに消え去っているという。いずれも地下経済の拡大の兆候といえ、早急な各種対策が必要だと指摘している。