MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 ダイエットや食品業界の新しい流行語「hyperpalatable」は、「hyper」=超+「palatable」=味がよい、快く楽しいということで、超美味しい、大好きな食べ物という意味になります。食品業界は、いかに「hyperpalatable」な加工食品を生産するかが大きな課題となってきているのです。

 味、香り、色や口当たりの心地よさで、消費者に「美味しくって、やめられない。もっと食べたい!」と感じさせることが重要になります。

 一方、「food addiction」=食物依存症が米国で問題になっています。実は、食物依存症に関する論文は1956年にすでに報告されていて、著者のラドルフ博士は、「トウモロコシ、小麦、コーヒー、ミルク、卵、ジャガイモ」に依存性が認められることを論じています。

 その後、2008年にプリンストン大学のアヴェーナ博士らによって、高カロリー食品、特に砂糖の多い食品に依存性の可能性が強いことが報告されました。さらに、塩分、食品添加物を含む食品も依存性が問題になってきています。

 実は近年、食物依存症は、アルコールや麻薬依存症と同じ生物学的反応によって引き起こされることが分かってきました。

 コカインなど覚醒剤による薬物依存症は、ドーパミンという快感をもたらす神経伝達物質に関係しています。薬物を投与するとドーパミンが分泌され、快感や満足感が得られます。このドーパミンが枯渇すると、同じ快楽を得るためにまた薬物が欲しくなります。こうして薬物に対する依存症となるのです。

 私たちが美味しいものを口にすると、ドーパミンなどの神経伝達物質が分泌され、満足感を得ます。そして「もっと食べたい」と思いますよね。

 私たちが食べ物から体にエネルギーを取り込む際、その調節に重要な役割を果たしている神経系を、「脳内報酬系」と呼びます。脳内報酬系は「快楽中枢」とも呼ばれ、自分へのご褒美を与える神経系なのです。

 ところが、「もっと食べたい」という欲求が強くなりすぎると、喜びがコントロールできなくなり、習慣化、依存、そして中毒となってしまいます。

 過食に関係する(むちゃ食い障害: Binge eating disorder、神経性過食症: Bulimia nervosa や肥満など)人々の行動は、薬物依存症の人たちに似ています。むちゃ食い障害や神経性過食症の人には、薬物やアルコールの乱用も認められます。

 さて、今回は話題の食物依存症のドイツからのレビュー*をご紹介させて頂きながら、食物依存症について、一緒に考えてみましょう!